「今月の支払明細、安全協力会費が引かれているけれど、これは何のお金だろう?」
そう疑問に思ったことはありませんか。
結論からお伝えします。
・安全協力会費を引くこと自体は直ちに違法ではありません(双方の合意が必要)。
・勝手に引かれている場合、建設業法違反のおそれがあります。
・どう引かれるかは、事前に見積書や契約書で確認することが大切です。
この記事では、国土交通省の「建設業法令遵守ガイドライン」に沿って、下請の立場で安全協力会費について知っておきたいルールと対策をやさしく解説します。
この記事を書いた人:やさしい行政書士事務所 代表行政書士 宮本 雄介
神奈川県秦野市で、建設業許可・決算変更届・経営事項審査(経審)を中心に、建設業者さまの手続きをお手伝いしています。(執筆・監修者について)
目次
安全協力会費とは?どんなお金か
ガイドラインでは赤伝処理の4つ目「上記以外の諸費用」に名前がある
元請が下請代金を支払うときに、一部のお金を差し引く(相殺する)ことを「赤伝処理」といいます。
国土交通省の「建設業法令遵守ガイドライン(第12版・令和8年1月)」では、赤伝処理の4つ目のタイプである「上記以外の諸費用」の中に、安全協力会費の名前が挙げられています。
使い道と金額は会則・契約で決まる(ガイドラインに定義・相場はない)
ガイドラインの中に、安全協力会費の使い道や金額、割合についての定義はありません。
そのため、いくら引かれるのか、何に使われるのかは、元請の協力会の会則や契約書で決まります。
見積書に入れる「安全衛生経費」とはお金の向きが逆
言葉が似ていますが、「安全協力会費」と「安全衛生経費」はお金の向きが逆です。
安全協力会費は、元請から支払われる代金から「差し引かれる」お金です。
一方で安全衛生経費は、下請が現場の安全対策のためにかかる費用のことです。
こちらは、下請が見積書に入れて、元請から代金に含めて「受け取る」お金になります。
安全協力会費を引くのは違法?
引くこと自体は直ちに問題ではない(双方の協議・合意が条件)
代金から安全協力会費を引くこと(赤伝処理)自体が、直ちに建設業法上の問題となるわけではありません。
ただし、その内容や差し引く根拠について、元請と下請の間で双方の協議と合意があることが条件です。
違反の「おそれ」がある3つの場面(合意がない/根拠が不明確/実費より過大)
次のような差引きは、各々の対等な立場における合意に基づいて公正な契約を結ぶという建設業法18条の原則を没却することになるため、その情状によっては、同法28条1項2号の「請負契約に関する不誠実な行為」に該当するおそれがあります。
⚠️ 違反のおそれがある場面
- 協議・合意がないまま、一方的に差し引いている
- 合意はあるが、差し引く根拠が不明確である
- 実費よりも過大な費用を差し引いている
また、差引きによって下請代金が「通常必要と認められる原価」を下回る場合は、取引への依存度などによっては、不当に低い請負代金の禁止に違反するおそれもあります。
赤伝処理とは?ガイドラインの4つのルール
赤伝処理の4つのタイプ
建設業法令遵守ガイドラインでは、赤伝処理の対象を次の4つに分類しています。
1. 一方的に提供・貸与した安全衛生保護具等の費用
2. 下請代金の支払に関して発生する諸費用(振込手数料など)
3. 建設副産物の運搬処理費用
4. 上記以外の諸費用(駐車場代、安全協力会費など)
ルール① 双方の協議・合意が必要
どのタイプであっても、赤伝処理を行うには双方の協議と合意が必要です。
なお、振込手数料については、振興基準で、合意の有無にかかわらず中小受託事業者(中小の下請)に負担させて代金から差し引いてはならないとされています。
ルール② 見積条件・契約書面への明示が必要なのは3つだけ
赤伝処理のうち、1〜3の費用については、差引額の根拠などを見積条件や契約書面に明示する必要があります。
見積条件に明示しなかった場合は建設業法20条3項に、契約書面に記載しなかった場合は同法19条に違反します。
安全協力会費は4つ目の「上記以外の諸費用」にあたるため、この書面化義務の対象にはなっていません。
ルール③ 書面化義務の対象外でも書面にしておくのが望ましい
安全協力会費などは法律上の書面化義務の対象ではありません。
しかしガイドラインでは、後日のトラブル(紛争)を避ける観点から、書面にしてお互いに取り交わしておくことが望ましいとされています。
ルール④ 根拠・使途を示し、過剰な負担にしない
元請は、差引額の算出根拠や使い道(使途)を明らかにして、下請と十分に協議する必要があります。
たとえば、下請工事の完成後に協力費の収支を開示するなどして透明性を確保し、下請の過剰な負担にならないよう配慮することが求められています。
合意なく引かれていたら:下請の確認5ステップ
ステップ1 記録を集める
合意していないのにお金が引かれていると感じたら、まずは事実を確認するための記録を集めましょう。
いつ、いくら引かれているのかがわかる支払明細書や、請求書の控えを手元に用意します。
ステップ2 契約書・注文書・条件書・会則を確かめる
次に、契約のときに交わした書類を確認します。
💡 行政書士が書類を見るときの着眼点
注文書の裏面や約款に差引きの条項はないか、見積条件書はどうなっているかを確認します。
また、協力会の会則や支払通知書の差引欄に、安全協力会費に関する記載がないかもチェックします。
ステップ3 元請に根拠・計算・使い道・収支の開示を聞く
書類を確認してもわからない場合は、元請の担当者に質問して協議します。
確認しておきたいポイントは以下の通りです。
- なぜ差し引くのか(根拠)
- どのような計算で金額が決まるのか(計算方法)
- 何のために集めているお金なのか(使い道)
- 集めたお金の収支はどうなっているか(収支の開示)
- 安全協力会に入会することは必須なのか
- 退会した場合、差引きはどうなるのか
ステップ4 合意の内容を書面にする
話し合いで合意ができたら、その内容を必ず書面に残しましょう。
口約束のままにせず、覚書を取り交わすか、次回からの注文書等に条件を明記してもらいます。
📢 差引きの条件を契約書・注文書にどう書くか迷ったら、無料でご相談いただけます(0463-57-8330)。
※当事務所は書類の整備をサポートいたします。元請との代金交渉などの代理は行っておりません。
ステップ5 解決しないときの相談先
元請と話し合っても解決しない場合や、一方的な差引きが続く場合は、外部の窓口への相談を検討します。
※窓口の最新情報は各機関の公式サイトでご確認ください。
| 相談先 | 国土交通省「駆け込みホットライン」 (各地方整備局等に設置) |
|---|---|
| 相談先 | 公正取引委員会(建設業法24条の5の通報先の一つ) ※建設工事の下請取引は取適法の対象外で、独占禁止法の「建設業の下請取引に関する不公正な取引方法の認定基準」の観点で扱われます。窓口は公正取引委員会のサイトで確認してください |
| 解決機関 | 建設工事紛争審査会(あっせん・調停・仲裁を行います) ※国土交通省に中央建設工事紛争審査会、各都道府県に都道府県建設工事紛争審査会があります。元請と下請がともに同じ都道府県の知事の許可業者ならその都道府県の審査会、双方が国土交通大臣の許可業者の場合や、許可をした行政庁が異なる場合は中央建設工事紛争審査会が管轄します(建設業法25条の9)。下請が建設業許可を持たない場合は、元請が国土交通大臣の許可業者なら中央建設工事紛争審査会、都道府県知事の許可業者ならその都道府県の審査会が管轄します(同条1項3号・2項2号)。当事者の合意で管轄の審査会を決めることもできます。 |
| 専門家 | 弁護士(紛争の代理や具体的な交渉) |
違反の通報を理由にした取引停止は禁止(建設業法24条の5)
「窓口に相談したら、仕事をもらえなくなるのでは」と不安に思うかもしれません。
建設業法24条の5では、不当に低い請負代金(19条の3第1項)や使用資材等の購入強制(19条の4)など、同条に挙げられた規定に違反する行為があるとして、下請が、元請が許可を受けた国土交通大臣または都道府県知事、公正取引委員会、中小企業庁長官にその事実を通報したことを理由に、元請が取引の停止その他の不利益な取扱いをすることを禁止しています。
安全協力会費の差引きでいえば、差し引いた結果、代金が工事に通常必要と認められる原価に満たなくなる場合などが、これに当たり得ます。紛争審査会への申立てや弁護士への相談は、この条文の通報先には入っていません。
見積書・契約書・請求書での扱い
見積書:安全衛生経費は内訳に入れる(法20条1項・規則13条の12)
建設業法20条1項により、建設業者は請負契約を結ぶに際して、材料費・労務費や、適正な施工を確保するために不可欠な経費などの内訳を記載した見積書を作成するよう努めなければなりません。
建設業法施行規則13条の12では、この経費として「法定福利費(事業主負担額)」「安全衛生経費」「建設業退職金共済(建退共)の掛金」が定められています。安全衛生経費は、見積書でしっかりと内訳に入れましょう。
契約書・注文書:差引きは書面に残す
安全協力会費を差し引くことになった場合は、後で「聞いていない」とならないよう、契約書や注文書に明記することが重要です。
お互いが納得した上で書面に残しておけば、あとで食い違いが起きにくくなります。
契約書の書き方は「工事請負契約書の書き方|建設業法19条の記載事項と注文書・請書・押印のルール」で詳しく解説しています。
請求書と帳簿:一般論と税理士に聞くこと
請求書を出す際や帳簿をつける際、引かれた安全協力会費をどう処理するかに迷うことがあります。
請求額と実際の入金額が違うと、あとで帳簿が合わなくなります。差し引かれた日付と金額は、必ず記録しておきましょう。
📋 説明用の数字の例(※相場ではありません)
・契約どおりの請求額:1,000,000円
・安全協力会費として差引き:3,000円
・実際の入金額:997,000円
※消費税の扱いや正確な勘定科目の判断については、顧問の税理士にご確認ください。
よくある質問(FAQ)
安全協力会費の相場はどのくらいですか?
安全協力会費の金額や割合について、法律やガイドラインに相場の決まりはありません。
元請の会則や契約ごとに異なるため、事前にしっかり確認することが大切です。
一人親方でも引かれる対象になりますか?
元請のルールの下で現場に入る場合、一人親方であっても協力会の対象となることがあります。
入会が必須なのか、任意なのかを含めて、契約前に確認しましょう。
なお、ガイドラインの赤伝処理の4つ目には、建設キャリアアップシステム(CCUS)のカードリーダー設置費用や現場利用料も挙げられています。CCUSの費用は「建設キャリアアップシステム(CCUS)一人親方の費用は?」で解説しています。
安全協力会をやめたい(退会したい)場合はどうすればよいですか?
まずは協力会の会則や契約書で、退会のルールを確認します。
退会後も差引きが続くようなら、元請に根拠の説明を求めましょう。合意のない一方的な差引きは、建設業法に違反するおそれがあるとされています。
差引きとは別に、代金そのものを見直してほしいのですが。
資材高などで代金を見直したいときの考え方は「値上げを言い出せない建設業者へ|資材高を「価格転嫁」する武器=改正建設業法とは」、労務費の考え方は「建設業の労務費の基準(標準労務費)とは?」で解説しています。
当事務所がお手伝いできるのは、見積書・契約書などの書類の整備までです。代金の交渉の代理は行いません。
まとめ
安全協力会費の差引き(赤伝処理)は、双方の協議と合意があれば直ちに問題とはなりません。
しかし、合意のない一方的な差引きなどは建設業法違反のおそれがあります。
疑問に思ったら、まずは契約書類や明細書を確認し、元請に根拠や使い道を聞くことが重要です。
ルールを正しく理解して書面に残すことで、安心して工事に取り組むことができます。
参考にした資料
- 国土交通省『建設業法令遵守ガイドライン(第12版・令和8年1月)』(9.赤伝処理・12.不利益取扱いの禁止)
- 建設業法
- 建設業法施行規則(13条の12)
- 公正取引委員会「建設業の下請取引に関する不公正な取引方法の認定基準」
※本記事は建設業関係の法令解説を目的としており、個別の事案への適用を保証するものではありません。最新の要件等は管轄の行政庁にご確認ください。
📢 差引きの条件、契約書や注文書に書けていますか
安全協力会費などの差引きは、あとから「聞いていない」とならないよう、書面に残しておくことが大切です。
契約書・注文書・見積書をお持ちいただければ、差引きの条件がどこに書いてあるかと、これからの書類の整え方を一緒に確認します。代金の交渉や紛争になっている場合は、弁護士など専門家をご案内します。
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