「その労務費、もう少し何とかなりませんか」
見積書を出したとたん、そう言われて言い返せなかった。そんな経験はありませんか。
逆の立場なら、こんな不安もあるはずです。下請から出てきた見積りが妙に安い。でも「知りませんでした」では済まされないらしい――。
令和6年に改正された建設業法が、2025年(令和7年)12月12日に全面施行され、労務費に関する新しいルールが動き出しました。ニュースや業界紙では「標準労務費」と呼ばれることも多く、この言葉で検索してこの記事にたどり着いた方も多いと思います。
元請の方も、下請・専門工事業者の方も、一人親方の方も、他人事ではありません。この記事は、神奈川県央エリアで建設業許可を専門にする行政書士が書いています。国土交通省の一次資料をもとに、次の4つの疑問に正面から答えます。
- そもそも何が決まったのか
- 自社は何をすればいいのか
- 自分の職種だと、具体的にいくらなのか(神奈川の実例つき)
- 守らないとどうなるのか
先に結論からお伝えします。
結論を先に言うと
- 2025年12月12日、改正建設業法が全面施行され、「労務費に関する基準」(通称:標準労務費)が動き出しました。
- 神奈川県の型枠工事(建築)なら、労務費の基準値は5,441円/㎡です(内訳はあとで解説します)。
- 見積書には、労務費とは別に、法定福利費・安全衛生経費・建退共掛金の3つを書く必要があります。
- 今の段階では、いきなりの取り締まりより「見積書に内訳を書く習慣を広めること」が重視されています。
- 今日からできることは3つ。①自分の職種の基準値をポータルで調べる ②見積書の書式を見直す ③契約書を整備する。
それぞれ、順番に見ていきましょう。
目次
そもそも「労務費の基準」(標準労務費)って何が決まったのか
「標準労務費」という言葉は、実は条文のどこにもない
まず、言葉の整理をさせてください。ここが曖昧なまま検索すると、遠回りしてしまいます。
「標準労務費」は、この制度が国で検討されていた当時に使われていた呼び名です。今の正式なルール名ではありません。
現在の正式な呼び方は、次の2つです。
| 呼び方 | 正体 |
|---|---|
| 労務費に関する基準 | 中央建設業審議会が作成・勧告した基準そのもの |
| 労務費の基準値 | 基準をもとに、国が職種・都道府県ごとに示す具体的な金額 |
実際、建設業法の条文を見ても「標準労務費」という言葉は出てきません。「労務費」という言葉自体、20条・24条の3・34条という3つの条文にしか登場しないくらい、意外とコンパクトな規定です。
「標準労務費」で検索しても間違いではありません。ただ、正式な資料を探すときは「労務費に関する基準」「労務費の基準値」という言葉で探した方が早く目的の情報にたどり着けます。
誰が、何を決めたのか
根拠になっているのは、建設業法34条2項です。中央建設業審議会(国土交通省に置かれる公的な審議会。中建審と略されます)は、この条文にもとづいて動いています。建設工事の工期および労務費に関する基準を作成し、その実施を勧告することができます。
この基準の本文は、2025年(令和7年)12月2日に中央建設業審議会が決定しました。あわせて、価格交渉の目安になる具体的な数字=「労務費の基準値」も、職種ごとに順次公表されています。
基準では、支払いの段階まで見届けるための仕組みも示されています。標準請負契約約款にコミットメント条項(労務費・賃金の適正な支払いについて表明し、情報開示に合意する条項)を導入すること、技能者が賃金について情報提供できる制度をつくることなどです。これらは基準が「講じることが適切」として示した施策で、今後、順次かたちになっていきます。
なお、下請へのしわ寄せを防ぐ仕組みとして、元請負人には、下請代金のうち労務費にあたる部分を現金で支払うよう配慮する義務も定められています(建設業法24条の3第2項)。
改正建設業法では、このほかにも下請契約の金額ラインなどが見直されています。あわせてこちらもご覧ください。
→ 建設業法改正|下請5,000万円で特定許可・専任4,500万円に
適正な労務費はどう計算する?基準値の計算式

労務費の基準は、次の式で「適正な労務費」を導く考え方を示しています。
適切な職種の公共工事設計労務単価(円/人日)× 施工条件・作業内容に照らして適正な歩掛(人日/単位施工量)= 単位施工量あたりの労務費
これに「必要な施工量」を掛けると、その工事の適正な労務費になります。
専門用語を1つずつ、かみ砕いておきます。
- 公共工事設計労務単価=国が公共工事の予算を組むときに使う、職種ごとの1人1日(8時間)あたりの人件費の目安。51職種・47都道府県ごとに設定されています。平成24年から令和7年までの13年間で、全国全職種の平均は約90%上がりました。
- 歩掛(ぶがかり)=ある作業を1単位(1平方メートルや1トンなど)仕上げるのに、何人日かかるかの目安です。
計算のうえで、国が示している留意点はこちらです。
- 労務単価は、公共工事設計労務単価を下回らない水準にすること
- 歩掛は、その工事の施工条件・作業内容に照らして、受注者が責任をもって施工できる水準で設定すること
- 使う単価は、工事の施工場所がある都道府県の値であること
- CCUS(建設キャリアアップシステム。技能者の資格や現場経験を記録する仕組み)のレベルが高い技能者が必要な場合や、夜間工事などで人の確保コストが高い場合は、受注者が労務単価を割り増して見積もってよいこと
- その場合、発注者は実態と妥当性を踏まえて、双方が誠実に価格交渉すること
CCUSは経審(経営事項審査=公共工事の入札に必要な会社の評価)の加点にもつながる仕組みです。詳しくはこちらの記事で解説しています。
ここで1つ、大事な注意点があります。この計算式で出てくる労務費は、技能者の賃金にあたる部分(社会保険料の本人負担分を含みます)だけです。会社が負担する法定福利費や、安全対策の費用、退職金の積み立ては含まれていません。この点は、あとの章で詳しく説明します。
神奈川の実例でいくら?型枠工事の労務費の基準値
ここからは、実際の数字を見てみましょう。神奈川県の型枠工事(建築)の場合、労務費の基準値は次のとおりです。
| 職種 | 歩掛 | 設計労務単価 | 労務費 |
|---|---|---|---|
| 型わく工 | 0.15人日/㎡ | 32,700円/人日 | 4,905円/㎡ |
| 普通作業員 | 0.02人日/㎡ | 26,800円/人日 | 536円/㎡ |
| 合計(労務費の基準値) | 5,441円/㎡ |

歩掛から逆算すると、1人が1日でこなせる目安は、約5.88㎡(=1÷0.17人日)です。
この数字は、令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価(神奈川県)と、公共建築工事標準単価積算基準(令和8年改定)にもとづいて算出されたものです。
出典:国土交通省「労務費の基準値」神奈川県版(型枠工事・建築)PDF
この数字には、前提条件があります
この基準値は、次のような条件を想定したものです。
- 普通型枠合板を使用
- ラーメン構造(柱と梁で建物を支える構造)の地上軸部
- 階高3.5〜4.0メートル程度
- 官庁施設(事務庁舎など)の新築建築工事を想定
そして、次の費用は含まれていません。
- クレーンなど揚重機(ようじゅうき=資材を吊り上げる機械)の機械経費
- 型枠の運搬費
- 人通孔(じんつうこう=点検用の通り抜け穴)・耐震スリット・目地棒・大面木にかかる費用
- 足場代
- 発生材の場外搬出・処分費
雇用に伴う経費を含めた参考値は8,053円/㎡
法定福利費(会社負担分)、労務管理費、安全管理費、宿舎費といった「雇用に伴い必要な経費」を含めた参考値も、あわせて公表されています。基準値の48%を加算した、8,053円/㎡です(令和8年2月17日の公表資料による)。
こちらも、基準値そのものと同じく、含まれていない費用があります。利益や本社経費は入っていません。
大事な注意:この基準値、そのまま契約には使えません
ここが一番誤解しやすいポイントです。
この基準値は、そのまま個別の契約に当てはめてよい数字ではありません。
型枠の転用率、建物の構造や部位、階高などによって、現場ごとに補正する必要があります。国も、補正の係数までは示していません。実際の金額は、発注者と受注者が、それぞれの現場の条件を踏まえて話し合って決める、というのが基準の考え方です。
「基準値=そのまま使える見積り単価」ではなく、「基準値=価格交渉のたたき台」と捉えるのが実態に近いイメージです。
とはいえ、根拠のある数字を手元に持っているかどうかで、交渉の土台はまったく変わります。「安すぎませんか」と言われたときに、何を根拠に反論すればいいか。その具体的な言い方は、こちらの記事でまとめています。
自分の職種の基準値の調べ方
型枠工事以外の職種の方も、自分の基準値を調べる方法があります。国土交通省の「労務費に関する基準ポータルサイト」で、都道府県別・職種分野別に確認できます。
調べ方は、次の4ステップです。
- 労務費に関する基準ポータルサイトにアクセスする
- 「都道府県から探す」で神奈川県を選ぶ(または神奈川県のページに直接アクセス)
- 自分の職種分野を選ぶ
- PDFで歩掛・設計労務単価・基準値・前提条件を確認する
2026年8月10日時点で、ポータルサイトから基準値を探せる職種分野は、次の22です。
型枠/鉄筋/左官/潜かん/橋梁/造園/住宅分野/電工/とび・土工/空調衛生/切断穿孔/警備/計装/塗装/内装/板金・屋根ふき/解体/防水/さく岩/タイル・サッシ・ガラス/エクステリア/上下水道
まだ自分の職種の基準値が出ていない方もいると思います。国は「基準値の定めのない職種分野においても、基準の基本的な考え方に沿った適正な労務費等を確保する必要性に変わりはありません」としています。基準値がなくても、「公共工事設計労務単価×適正な歩掛×施工量」という考え方そのものは、そのまま使えます。
基準値は随時更新されています。直近では2026年6月17日に基準値が更新され、6月29日には運用方針も改正されました。最新の数字は、そのつどポータルサイトでご確認いただくのが安心です。
いつから、どの契約から適用される?
「うちの契約はいつから対象になるの?」という質問もよくいただきます。整理すると、次のようになります。
| 規定 | 内容 | いつから適用されるか |
|---|---|---|
| 建設業者の原価割れ契約の禁止(法19条の3第2項) | 受注者側も、正当な理由なく原価を下回る金額で契約してはいけない | 令和7年12月12日以降に締結した請負契約 |
| 材料費等記載見積書のルール(法20条関連) | 内訳明示の努力義務、著しく低い見積り・見積り変更依頼の禁止など | 施行日(令和7年12月12日)後に交付する見積書(施行日前に結んだ契約の、変更契約の見積書も含む) |

ポイントは2つです。
1つ目は、原価割れ契約の禁止(法19条の3第2項)が適用されるのは、施行日以降に締結した契約だという点です。施行日より前に締結した契約には、この規定は適用されません。
2つ目は、施行日より前の契約でも、施行日後に変更契約の見積書を出す場合は、見積書のルールの対象になることです。長期の契約を結んでいる方は、この点だけ覚えておいてください。
なお、原価割れ契約の禁止は、以前から発注者側に定められていました(法19条の3第1項)。今回の改正のポイントは、受注者側にも同じ趣旨のルールが加わったことです(同条第2項)。
ただし、受注者側の禁止には例外もあります。省令(施行規則13条の11)で、次の3つが「正当な理由」として定められています。
- 自社が持っている低廉な資材を使えること
- 先端的な技術や、蓄積された知識・技術・技能を活かして工事原価を下げられていること
- 緊急の必要など、やむを得ない事情があること
見積書・契約書に労務費をどう書けばいいのか

「何をすればいいか分からない」という方向けに、実務で押さえるべきポイントを3つに整理します。
1. 材料費等記載見積書――今は「努力義務」
建設業法20条1項には、見積書のルールがあります。工事の種別ごとに、材料費・労務費・必要経費の内訳を書くこと。そして、工程ごとの作業と、その準備に必要な日数も書くこと。この2つを「努めなければならない」と定めています。これを材料費等記載見積書と呼びます。
ここで注意したいのは、これが努力義務だという点です。内訳を書くこと自体が、いきなり義務になったわけではありません。ただし、発注者から請求があれば、契約が成立するまでに見積書を渡すことは義務です(法20条4項)。
見積書に書く材料費等の額は、通常必要な額を著しく下回ってはいけません(法20条2項)。逆に、発注者側が「材料費等を著しく下回るように」見積りの変更を求めることも禁止されています(法20条6項)。
2. 見積期間――発注者が確保すべき日数
見積書を作るための期間(見積期間)は、工事の予定価格に応じて、日数が政令で決まっています(施行令5条の9)。
| 工事1件の予定価格 | 見積期間 |
|---|---|
| 500万円に満たない | 1日以上 |
| 500万円以上5,000万円に満たない | 10日以上 |
| 5,000万円以上 | 15日以上 |
やむを得ない事情があるときは、10日・15日の区分に限り、5日以内まで短縮できます。500万円未満の「1日以上」は、短縮の対象になりません。
ここは特に大事な点なので、繰り返します。見積期間を確保するのは、注文者(発注者)の義務です。 極端に短い期間しかもらえていない場合、それ自体が問題になり得ます。
#### 「いつから数えるのか」も、国が例で示しています
この日数は、契約内容を提示してから契約を締結するまでの間に設ける期間です。国土交通省の「建設業法令遵守ガイドライン」に、こんな具体例が載っています。
例えば、6月1日に契約内容の提示をした場合には、アに該当する場合は6月3日、イに該当する場合は6月12日、ウに該当する場合は6月17日以降に契約の締結をしなければならない
アが500万円未満、イが500万円以上5,000万円未満、ウが5,000万円以上です。下請側が期間の満了を待たずに見積書を出した場合は、この限りではありません。
数え方は暦のとおりです。「土日祝を除いて数える」といった決まりは、政令にもガイドラインにも書かれていません。
そして同じガイドラインには、建設業法違反となる行為の例が、はっきり書かれています。
元請負人が予定価格が700万円の下請契約を締結する際、見積期間を3日として下請負人に見積りを行わせた場合
700万円なら10日以上が必要です。「急ぎだから3日で」は、ここに引っかかります。「できるだけ早く」といった曖昧な期間設定や、そもそも期間を設けないことも、問題となる行為として挙げられています。
なお、この見積期間は追加工事の見積りを頼むときにも必要です。本体工事のときだけの話ではありません。
また、発注者が先に金額を示して発注すること自体(いわゆる指値発注)は、禁止されていません。ただし、取引上の地位を不当に利用して原価割れを強いることは禁止です。建設業者である注文者が金額を指定して募集する場合は、工期や施工条件を明示することが必要です。労務費の額を指定するなら、根拠になる単価や歩掛も示すことが求められます。
3. 労務費とは別に書くべき3つの経費
見積書・契約書を整備するうえで、一番見落とされやすいのがここです。
労務費の中には、次の3つは含まれていません。省令(施行規則13条の12)で、見積書の内訳明示の対象として、労務費とは別に書くべきとされています。
- 法定福利費(会社が負担する健康保険・厚生年金などの保険料の事業主負担分)
- 安全衛生経費(現場の安全対策にかかる費用)
- 建退共掛金(建設業退職金共済の掛金)
言い換えると、労務費にあたるのは、技能者の賃金にあたる部分(社会保険料の本人負担分を含む)だけです。会社が負担する保険料や、現場の安全対策費、退職金の積み立ては、別枠で確保すべきお金です。ここを労務費に混ぜて計上してしまうと、実質的に労務費を削っているのと同じことになりかねません。
見積書の項目を並べるとしたら、たとえばこんな形が考えられます。
| 区分 | 項目 |
|---|---|
| 直接工事費 | 材料費 |
| 直接工事費 | 労務費(=賃金の原資。単価×歩掛×施工量で算出) |
| 別掲 | 法定福利費(事業主負担分) |
| 別掲 | 安全衛生経費 |
| 別掲 | 建退共掛金 |
| その他 | 機械経費・運搬費・現場管理費・一般管理費 など |
大事なのは、労務費と、別掲の3つを「同じ袋に入れない」ことです。総額だけを提示する形から、この形に変えるだけでも、価格交渉の中身がはっきりします。
なお、中退共(中小企業退職金共済)の掛金は、法律上の内訳明示の対象ではありませんが、書いて価格交渉すること自体は差し支えないとされています。建退共とは別の制度なので、混同しないよう注意してください。
契約書に資材や労務費の変動リスクへの備えを入れておきたい場合は、スライド条項という方法もあります。書き方はこちらにまとめています。
基準を守らないとどうなるのか
「罰則はあるの?」という質問にもお答えします。
- 受注者側が著しく低い金額で見積り・契約を結んだ場合 → 指導・監督の対象になります(法28条)
- 発注者側が、材料費等を著しく下回るような見積りの変更を求め、その見積りにもとづいて契約を結んだ場合 → 一定規模以上の契約について、許可行政庁が発注者に勧告できます(法20条7項)。違反した発注者への勧告・公表は、基準でも実効性確保の柱に位置づけられています
- そのほか、立入検査(法31条)や改善指導(法41条)も用意されています
現場では、国土交通省の「建設Gメン」が調査にあたります。当初の見積書と最終的な見積書を比べて、労務費に差が出ていないかをチェックします。労務単価が、職種の標準的な水準より著しく低くないかも見ます。その差が、歩掛の効率化(生産性向上)によるものか、単価の値下げによるものか。まずそこを見きわめます。そのうえで、違法性の疑いを確認する、という流れです。
相談窓口として、各地方整備局などに「駆け込みホットライン」も設けられています。発注者・受注者、元請・下請を問わず相談できます。
ここで、誇張せずお伝えしたいことが2つあります。
1つ目。国は「著しく低い労務費」の具体的な水準や割合は、示さない方針です。ですので、基準値を少しでも下回ったら即違法、というわけではありません。 ただし、実現不可能なほど高い効率の歩掛を使って安く見せかけることは、著しく低い労務費に該当するおそれがある行為とされています。逆に、本当の意味での生産性向上でコストを下げること自体は、基準の考え方と矛盾しません。
2つ目。法律が施行されてしばらくの間、建設Gメンは「見積書に労務費等を内訳明示する習慣を広めること」に重点を置くとされています。制度が始まってすぐに、取り締まり一辺倒になるわけではなさそうです。
国のガイドラインには、こんな行為が並んでいます
国土交通省の「建設業法令遵守ガイドライン」(第12版・令和8年1月改訂)には、今回の基準がすでに組み込まれています。たとえば次の行為が、建設業法上違反となるおそれがある行為として挙げられています。
下請負人が、元請負人から提示された工事内容を適切に施工するため、「労務費に関する基準」の内容を踏まえ(中略)労務費が確保された適正な額の見積りを行ったにも関わらず、元請負人がその内容を尊重せず、通常必要と認められる労務費等の額を著しく下回るおそれのある見積りの変更を求めた場合
複数の会社から見積りを取り、一番安い金額に合わせるよう他社に変更を求める行為も、同じく挙げられています。
いっぽうで、材料費・労務費の数量や単価の内訳が書かれていない見積書や、法定福利費・安全衛生経費の内訳を書かずに出した見積書は、望ましくない行為として整理されています。ここは下請側にとっても他人事ではありません。
元請・注文者の方へ:安すぎる見積りを受け取ったら
冒頭で触れた「下請から出てきた見積りが妙に安い」というケースです。押さえるべきことは3つあります。
- 労務費の額を指定するなら、根拠を示す。 金額を提示すること自体は禁止されていませんが、その場合は工期・施工条件を明示し、労務費については根拠となる労務単価と歩掛を示すことが求められます。
- 見積りの差は、理由を記録に残す。 当初の見積りから金額が下がったとき、それが生産性向上(歩掛の減少)によるものなのか、単価の引き下げによるものなのか。建設Gメンが見るのもここです。理由が説明できる形にしておくのが安全です。
- 著しく下回る変更は求めない。 材料費等の額を、通常必要な額を著しく下回るように変更させることは禁止されています(法20条6項)。
よくある疑問
Q. 元請と下請で、労務単価を変えてもいいの?
A. 同じ作業であれば、元請・一次下請・二次下請のどの段階でも、同じ労務単価を使うのが基本の考え方です。
Q. 「指値発注」は禁止されたの?
A. 金額の案を示して契約を持ちかけること自体は、禁止されていません。禁止されているのは、取引上の地位を不当に利用して原価割れを強いることです。建設業者である注文者が金額を指定するなら、根拠になる単価や歩掛を示すことが求められます。
Q. 自分の職種に基準値がまだない。対象外ということ?
A. いいえ。基準値が未公表の職種分野でも、適正な労務費を確保する必要性は変わりません。公共工事設計労務単価×適正な歩掛×施工量という考え方は、基準値の有無にかかわらず使えます。
Q. 基準値を1円でも下回ったら、違法になるの?
A. いいえ。基準値は、そのまま契約に当てはめる数字ではなく、補正が前提の参考値です。下回った=即違法、ではありません。ただし、実現不可能なほど効率的な歩掛を使うなど、著しく低い労務費での見積りには、是正の対象になり得るものがあります。
Q. 一般のお施主さん(建設業者でない発注者)にも関係あるの?
A. あります。国は、建設業に関係しない発注者にも制度が適用されるとしたうえで、発注者になりうる事業者の業界団体へ順次周知するとしています。
今日からできる3つの対応
最後に、今日から着手できることを3つにまとめます。
ステップ1. 自分の職種・都道府県の基準値を確認する
国土交通省の労務費に関する基準ポータルサイトで、自分の職種分野と神奈川県のページを確認しましょう。基準値だけでなく、前提条件も一緒に見ておくと、あとで交渉するときに役立ちます。
ステップ2. 見積書の書式を見直す
労務費、法定福利費、安全衛生経費、建退共掛金を、それぞれ別の項目として書けるように、見積書のフォーマットを整えましょう。先ほどの内訳の並べ方が、そのまま雛形になります。材料費等記載見積書は今のところ努力義務ですが、内訳明示の習慣をつけておくと、発注者側からの信頼にもつながります。
ステップ3. 契約書・社内の交渉フローを整備する
資材や労務費の変動に備えるなら、契約書にスライド条項を入れておく方法もあります。「値上げを切り出しにくい」という方は、価格転嫁の具体的な言い方をまとめた記事も参考にしてください。
技能者を大切にする会社としての姿勢を示す方法として、自主宣言制度に取り組むのも一つの選択肢です。経審の加点にもなります。
まとめ:労務費の基準は「価格交渉のたたき台」
改正建設業法にもとづく「労務費に関する基準」(通称:標準労務費)は、罰則で縛るための制度というより、価格交渉の土台となる客観的な数字を国が示す、という性格の強い制度です。
神奈川県の型枠工事なら、基準値は5,441円/㎡。雇用に伴う経費を含めた参考値は8,053円/㎡でした。ただし、この数字はそのまま使える値ではなく、現場ごとの補正が前提です。
見積書には、労務費とは別に、法定福利費・安全衛生経費・建退共掛金を書く必要があります。見積期間の確保は、発注者の義務です。
今日からできることは、自分の職種の基準値を調べること、見積書の書式を整えること、契約書を見直すこと。この3つから始めてみてください。
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この記事の執筆・監修
やさしい行政書士事務所 代表行政書士 宮本 雄介
神奈川県秦野市南矢名2123-1 オレンジハイツ今井2E
電話:0463-57-8330
神奈川県央エリア(秦野市を中心に)で、建設業許可・経営事項審査(経審)を専門に取り扱っています。
※本記事の内容は2026年8月10日時点の情報にもとづいています。労務費の基準値は随時更新されるため、最新の数値は国土交通省のポータルサイトでご確認ください。
出典・参考資料
- 国土交通省「労務費に関する基準」(令和7年12月2日 中央建設業審議会決定):本文PDF/概要PDF
- 労務費に関する基準ポータルサイト:https://roumuhi.mlit.go.jp/
- 国土交通省「労務費の基準値」神奈川県版(型枠工事・建築):PDF
- 建設業法・建設業法施行令・建設業法施行規則(e-Gov法令検索)