執筆・監修:やさしい行政書士事務所 代表行政書士 宮本 雄介(神奈川県行政書士会所属/神奈川県秦野市)
資材費が上がり続けて、正直しんどい。そう感じている社長さんは多いはずです。
公共工事は金額が最初に決まっている契約です。値上がり分をずっと自腹で吸収していたら、利益はどんどん削られます。
「スライド条項を使えば請求できるらしい」と聞いたことがあるかもしれません。でも調べてみると、単品スライド・全体スライド・インフレスライドと3つも名前が出てきます。結局どれが自分の工事に使えるのか、迷ってしまいますよね。
この記事は、神奈川県内で公共工事を受注している建設業の社長さん・工事担当者の方向けです。3つのスライド条項の違いを比較表で整理し、自分の工事でどれを請求できそうか判断できるようにします。
なお、この記事は国の直轄工事と神奈川県が発注する工事を前提にしています。秦野市など市町村が発注する工事は、その市町村の契約書と運用を確認してください(記事の後半でも説明します)。
この記事でわかること
- 単品スライド・全体スライド・インフレスライドの違いが比較表で一目でわかる
- 3つの性格の違い(その都度直すのか、精算するのか)と、併用できるルール
- 自分の工事でどれを請求できそうか判断する流れ
- 国土交通省の計算例で「単品は0円、インフレは2,740千円」になる理由
- 神奈川県の工事で実際に請求するときの段取り・必要書類
目次
そもそも「スライド条項」とは?単品・全体・インフレ、3つとも契約書に書かれている
まず知っておいてほしいのは、単品スライド・全体スライド・インフレスライドは、どれか1つを選ぶものではないということです。
国の直轄工事の「工事請負契約書」と、神奈川県公共工事標準請負契約約款には、どちらも第26条にスライド条項があります。賃金や物価が変動したときに、請負代金額を変更できるという規定です。この第26条の中に、最初から3つの仕組みが書き込まれています。
- 第1項〜第4項:全体スライド
- 第5項:単品スライド
- 第6項:インフレスライド
つまり、契約を結んだ時点で、この3つの請求の仕組みはすでに契約書の中にあります。値上がりが起きたときに、状況に合うものを選んで「請求」するのが受注者の役目です。1つの工事で複数を請求することもできます(併用のルールは後述します)。
請求できるのは発注者・受注者のどちらからでもかまいません。物価が上がれば受注者側から増額を、逆に下がれば発注者側から減額を求められることもあります。
古い資料では、同じスライド条項が「第25条」と書かれていることがあります。国交省のページは、古いマニュアル名に「※現行は第26条」と注記しています。神奈川県のマニュアルも「第25条(現在の26条)」と書いています。
分かれ目になるのは、次の3つです。
- 工期の長さと、契約からどれくらい時間が経ったか
- 値上がりしたのが特定の主要な資材だけか、賃金か物価の水準が全般に動いたか
- 値上がりが比較的緩やかか、短期間で急激か
どれに当てはまるかで、自社がかぶる割合(1.5%か1%か)も変わります。この3つを軸に、以下で詳しく見ていきます。
単品スライド・全体スライド・インフレスライドの違い【比較表】

3つの違いを1枚の表にまとめました。国土交通省の資料と神奈川県の資料をもとにしています。
| 比較項目 | 全体スライド(第26条第1項〜第4項) | 単品スライド(第26条第5項) | インフレスライド(第26条第6項) |
|---|---|---|---|
| 使える工事 | 工期が12ヶ月を超える工事(かつ残工期2ヶ月以上) | すべての工事(かつ残工期2ヶ月以上) | すべての工事(かつ残工期2ヶ月以上) |
| 条項の趣旨 | 比較的緩やかな価格水準の変動に対応する措置 | 特定の資材価格の急激な変動に対応する措置 | 急激な価格水準の変動に対応する措置 |
| 対象になるもの | 契約から12ヶ月経過後の残工事量に対する資材・労務単価等(諸経費等も連動) | 部分払い済みの出来高を除く、特定の資材(鋼材類・燃料油類など) | 基準日以降の残工事量に対する資材・労務単価等(諸経費等も連動) |
| 受注者の負担割合 | 残工事費の1.5% | 対象工事費の1.0%(全体・インフレと併用している期間中は負担なし) | 残工事費の1.0% |
| 再スライド | 可能(全体スライドまたはインフレスライドの適用後、12ヶ月経過後に再度可能) | なし(仕組み上、再スライドの必要がない) | 可能(請求のたびに、その基準日から残工期2ヶ月以上が必要) |
| 請求できる時期の目安 | 契約締結日から12ヶ月経過後、かつ残工期2ヶ月以上のとき | 工期内。原則「工期末の2ヶ月前まで」 | 残工期(基準日から)が2ヶ月以上のとき |
表に出てくる言葉を、先に一言で説明します。
- 残工期=全体スライド・単品スライドは請求の時点、インフレスライドは基準日(原則は請求日)から数えた、工期末までの残りの期間
- 残工事費=まだ終わっていない部分の工事費
- 対象工事費=単品スライドの計算のもとになる請負代金額
- 出来高=もう出来上がった部分
- 基準日=インフレスライドの計算の基準にする日で、原則は請求日
表の「受注者の負担」ってどういう意味?
「受注者の負担割合」とは、そのパーセントまでは会社が自分で負担する、という意味です。超えた分だけが、スライド額(請求できる金額)になります。
全体スライドについては、条文(第26条第2項)が「変動前残工事代金額の1000分の15を超える額」(=1.5%)と定めています。単品スライド・インフレスライドの1%は、条文ではなく国交省・神奈川県の運用で定められています。
たとえば単品スライドなら、対象工事費の1%までは自己負担。1%を超えた金額だけを請求できます。
全体スライドの負担割合は1.5%と、やや高めです。対象が長い期間の工事(比較表のとおり工期12ヶ月超)で、比較的大きな建設業者が受注する前提だからです。神奈川県の単品スライド運用マニュアルが、そう説明しています。
ただし、これは負担割合を決めた理由の説明です。会社の規模によって全体スライドを使える・使えないが決まるわけではありません。使えるかどうかは、工期などの条件で決まります。
インフレスライドの1%は、天災など不可抗力の場合の考え方(契約書の第30条「天災不可抗力条項」)に準拠しています。建設業者の経営に最低限必要な利益まで損なわない、という趣旨で、単品スライドと同じ水準です。
性格の違いは「精算」か「中間修正」か。併用のルールも解説

3つのスライド条項は、金額の直し方の性格が違います。
全体スライドとインフレスライドは、工事の途中で契約金額をそのつど直す「中間修正的」な仕組みです。 材料費だけでなく、共通仮設費や現場管理費といった諸経費も一緒に動きます。
一方、単品スライドは、対象になった材料の費用について金額を確定させる「精算的」な仕組みです。 動くのは対象材料の費用だけで、諸経費は変わりません。
急な値上がりは、物価資料の価格にすぐには反映されません。単品スライドには、そのズレに対応できる仕組みがあります。実際の購入金額が適当な金額であることを書類で示し、発注者に認められれば、その金額で計算できます。原則は物価資料の価格との低い方で、詳しくは後述します。
併用のルールは次のとおりです。
- インフレスライドと単品スライドは併用でき、請求の順番は問いません。ただし変更契約は、中間修正的なインフレスライドを先に行い、精算的な単品スライドを最後に行う流れになります。
- 全体スライドと単品スライドも併用できます。
- 全体スライドまたはインフレスライドを使っている期間は、単品スライドの1%自己負担は求められません。二重に自己負担させないための仕組みです。
- 全体スライドとインフレスライドが重なる場合は、両方の自己負担を考えます。先に行ったスライドの自己負担を差し引いた請負代金額をもとに、後のスライドの自己負担を計算します(国交省FAQ)。
特定の資材に加えて、資材や労務費も全体的に上がっている場合があります。そのときは、単品スライドと全体(またはインフレ)スライドの両方を検討しましょう。
自分の工事はどれを請求できる?判断の流れ

ここまでの内容を、判断の流れとして整理します。条文と国交省の資料にもとづく整理で、新しい条件を付け加えているわけではありません。神奈川県の工事は、県の判定フローで分かれ方が少し違うので、この節の最後で説明します。
ステップ1:残工期は2ヶ月以上ありますか?
全体スライド・単品スライドは請求の時点で、インフレスライドは基準日(原則は請求日)から数えて、残工期が2ヶ月以上あることが条件です。まずここを確認してください。
ステップ2:値上がりしているのは、特定の主要な資材だけですか?それとも、賃金か物価の水準が全般に動いていますか?
- 鋼材や燃料油など、特定の主要な工事材料の価格が大きく変動した → 単品スライドを検討します。
- 賃金(労務単価)か物価(資材など)の水準が全般に動いた(どちらか一方だけでも) → ステップ3へ進みます。
ステップ3:比較的緩やかな値上がりですか?それとも短期間で急激なインフレ(またはデフレ)ですか?
- 契約から時間が経ち、じわじわ全体的に上がってきた(比較的緩やかな変動) → 全体スライドを検討します。ただし、工期が12ヶ月を超える工事で、かつ契約締結から12ヶ月経過している必要があります。すでに全体スライドかインフレスライドで金額を変更している場合は、その変更で基準にした日から12ヶ月経過後です(契約書第26条第4項)。神奈川県の工事では、県の判定フローで全体スライドに進むのは、労務単価と工事材料が共に変動した場合です(下の節)。
- 短期間で急激なインフレ(またはデフレ)が起きた → インフレスライドを検討します。こちらは「契約から12ヶ月経過」の条件がありません。
ステップ4:自己負担の割合を確認する
単品・インフレは1%、全体は1.5%が自己負担の割合です。この割合を超えた分が請求できる金額になります。
併用も検討する
特定の資材と全体の値上がりが両方起きているなら、単品スライドと全体(またはインフレ)スライドの両方を確認してください。
※実際にどのスライド条項を使えるかは、価格変動の状況や契約の内容、発注者の運用を踏まえて判断されます。請求する前に、発注者(監督員)と確認しましょう。
神奈川県の工事は「スライド適用判定フロー」で確認できます
神奈川県は、スライド制度のチラシ(令和5年3月16日改訂)で「スライド適用判定フロー」を公開しています。フローは1本道ではなく、何が動いたかで枝分かれします。まず、工期末まで2か月以上あるかを確かめます(無ければ対象外)。そのうえで、次の3つの枝に分かれます。
- 労務単価(賃金水準)と工事材料が共に変動している → 契約締結日から12か月経過していれば、スライド額が残工事費の1.0%を超え、さらに1.5%を超えるときは全体スライド、1.5%以下ならインフレスライドです。12か月経過していなければ、残工事費の1.0%を超えるかどうかでインフレスライドを判定します。
- 工事材料だけが変動している → 特定の資材(1品目ごと)のスライド額が対象工事費の1.0%を超える品目があれば、単品スライドです。そういう品目が無いときは、残工事費の1.0%を超えるかどうかでインフレスライドを判定します。
- 労務単価だけが変動している → 残工事費の1.0%を超えるかどうかでインフレスライドを判定します。
最後の1.0%の判定を超えなければ、どの枝でも対象外です。
1.5%を超えていても、インフレスライドを選ぶこともできます(チラシの※3)。
つまり県のフローでは、全体スライドに進むのは労務単価と工事材料が共に変動した場合です。条文(第26条第1項)は「賃金水準又は物価水準」の変動で請求できると定めていますが、県の工事でどれを請求するかは、このフローで確かめ、まずは工事監督員に相談してください(チラシもそう案内しています)。
なぜ「単品は0円、インフレは2,740千円」になるのか【計算例】

国土交通省が公表している計算例で確認してみましょう。前提はこうです。
- 単品スライド:対象工事費100,000千円(1%=1,000千円が自己負担の割合)
- インフレスライド:残工事費100,000千円(1%=1,000千円が自己負担の割合)
値上がりした品目と変動額は次のとおりです(単位:千円)。
- 燃料油:990(軽油890+ガソリン100)
- 鋼材類:950(異形棒鋼900+H形鋼50)
- アスファルト類:900(再生アスファルト合材500+アスファルト乳剤400)
- コンクリート類:900(生コン500+プレキャストコンクリートL型擁壁400)
合計は3,740千円です。ここで結果が分かれます。
単品スライド:0円
単品スライドは、品目ごとに1%(1,000千円)を超えるかどうかを判定します。上の4品目はどれも1,000千円未満なので、どの品目も対象になりません。結果、スライド額は0円です。
インフレスライド:2,740千円
インフレスライドは、残工事費全体の変動額(ここでは4品目の合計)が1%(1,000千円)を超えるかどうかで判定します。合計3,740千円から1,000千円を引いた2,740千円が、スライド額(請負代金の変更額)になります(国交省の計算例)。
同じ値上がりでも、「品目ごとに見るか、全体で見るか」で結果がここまで変わります。
ただし、好きな方を選べるという話ではありません。インフレスライドは、価格水準全般が短期間で急激に変動したときの仕組みです(国交省FAQ)。
一方で神奈川県の判定フローでは、1品目ごとに1.0%を超える品目が無いときは、スライド額が残工事費の1.0%を超えるかどうかでインフレスライドを判定します。どちらに当てはまるかは、発注者(監督員)と確認しましょう(両者は併用もできます)。
神奈川県の工事で請求するときの段取りと必要書類
単品スライドの請求

対象になる材料
神奈川県が平成20年に単品スライドの運用を始めたときの対象は、鋼材類と燃料油でした。その後、アスファルト類(平成20年12月)とコンクリート類(平成25年)の運用が補足で加わり、今のマニュアルでは「鋼材類,燃料油,その他の主要な工事材料」が対象品目です。
どの材料を対象にするかは、受注者が請求した材料の中から、発注者と協議して決めます。生コンやアスファルト合材も、工事によっては対象になります。
時期
請求は工期内で行います。原則として「工期末の2ヶ月前まで」です。協議期間として14日間を確保するのが一般的なので、余裕を持って動きましょう。請求した時点にかかわらず、工事開始日以降に調達した品目がスライドの対象になります。
国交省のFAQ(直轄工事の解釈)では、請求の時点で証明書類を添付する必要はなく、次の見込みがあれば請求できるとされています。品目ごとの値上がりが、請負代金額の1%を超えると見込まれることです。県の工事での扱いは、監督員に確認しておくと安心です。
証明書類(証明できないと対象外になります)
対象になる資材ごとに、次の書類をそろえます。
- 納品書
- 請求書
- 領収書
これらで、数量・搬入や購入の時期・単価や購入価格を証明します。鋼材類は原則として、対象数量の全量についてこの3点をそろえます。証明がないと、その資材は対象にしてもらえません。
ただし、購入先や単価の書類を出しにくい事情が認められる場合は、搬入した月と数量を証明する書類で足りる扱いもあります。燃料油は、発注者の設計数量の範囲内であれば、書類による証明がなくても対象数量にできます(いずれも神奈川県のマニュアル)。
どの書類をそろえればよいか迷う段階でも、書類の棚卸しからご相談いただけます。
変動後の金額の決め方
変動後の金額は、品目ごとに「実勢価格(物価資料の相場の価格)で計算した額」と「実際の購入金額」の、低い方を使うのが原則です。
例外もあります。実際の購入金額が適当な金額であることを証明する書類を出し、発注者に適当と認められれば、購入金額の方が高くてもその金額を使えます。証明書類は、原則として、購入実績の書類と、同じ地域の市場取引価格が確認できる2社以上の見積りです。この見積りには、実際の購入先の分は原則として含みません。
下請が購入した材料
下請企業が資材を購入している場合は、下請企業名義の納品書・請求書・領収書でかまいません。ただし、その下請企業が実際にその工事に携わっていることを、施工体制台帳などで別途確認します。
部分払いの前に請求しておく
部分払い(工事の途中で代金の一部を受け取ること)をすでに済ませた出来高部分は、あとから遡って単品スライドを適用できません。
部分払いの検査(既済部分検査)を請求するときは、同時か、それより前に、単品スライドの請求もしておきましょう。そうすれば、その検査の出来高部分も対象にできます。既済部分検査を請求する書類(様式-7「請負工事既済部分検査請求書」)に、単品スライドの対象とする旨を書き添えます。
国交省のFAQ(直轄工事の解釈)では、前金払・中間前金払された金額も単品スライドの対象とされています。ただし、部分引き渡し・部分払いが完了した部分は対象外です。神奈川県の工事でも同じ考え方か、監督員に確認しておくと安心です。
様式(神奈川県)
- 様式-1:工事請負契約書第26条第5項に基づく請負代金額の変更請求
- 様式1-1:請負代金額変更請求額概算計算書
- 様式-3:請負代金額変更請求額計算書
- 様式-3-1:請負代金額の変更の対象材料計算総括表
- 様式-3-2・様式-3-3:各種資機材の材料証明書等
- 様式-7:請負工事既済部分検査請求書
- 様式7-1:既済部分確認通知書
値下がりのときも対象になります
資材価格が下がった場合は、逆に発注者から減額を求められることがあります。単品スライドは増額のためだけの制度ではありません。
全体スライドの請求
全体スライドは、次の8段階で進みます。
- 様式1:受注者が協議を請求(この日が「請求日」)
- 様式2:発注者が基準日を設定・通知
- 様式3:発注者が請求日から7日以内に協議開始日を通知(発注者が7日以内に通知しない場合は、受注者が協議開始日を定めて発注者に通知できます=契約書第26条第8項ただし書)
- 様式4:出来形部分(=もう出来上がった部分)の確認について協議(請求日から14日以内に確認)
- 様式5-1・5-2:出来形部分を確認(工事報告)
- 様式6-1〜6-3:受注者がスライド額を算定して協議
- 様式7:発注者がスライド額を確認・確定
- 様式8:契約変更(工事の精算変更にあわせて行うこともできます)
インフレスライドの請求
インフレスライドは、次の順に進みます。
- 様式1(請負代金変更協議請求書)で協議を請求します。この日が「請求日」です。
- 発注者と受注者が協議して「基準日」を決めます。基準日は、請求日から14日以内の日で、請求日とするのが基本です(神奈川県)。
条件は、基準日から残工期が2ヶ月以上あることです。
使う様式(神奈川県)は次のとおりです。
- 様式1:請負代金変更協議請求書
- 様式5-2:工事報告
- 様式6-1:請負代金変更協議開始書
- 様式6-2:スライド額計算書
- 様式6-3:残工事量確認書
対象は、労務単価・材料単価・機械器具損料(建設機械などの使用にかかる費用)と、それに伴う諸経費です。歩掛(作業に必要な人手や機械の量の目安)の変更は考慮されません。
市町村が発注する工事の場合
ここまでは国の直轄工事と神奈川県発注工事の話です。秦野市など市町村が発注する工事は、契約約款や条番号がこの記事と異なる場合があります。
請求する前に、発注した市町村の契約書で該当する条項を必ずご確認ください。市町村ごとの様式や運用までは、この記事では確認できていません。
民間工事の契約書や価格転嫁の話は、別記事で解説しています
ここまでは公共工事の話でした。民間工事では、この記事で説明した公共工事の約款や県の手続きがそのまま使われるわけではありません。ただ、民間工事の契約書にも「値上げできる仕組み」をあらかじめ条文として組み込むことはできます。ひな形や条文例は「スライド条項の書き方・条文例【全体/単品/インフレ】|民間工事の契約書に「値上げできる仕組み」を組み込む方法」で解説しています。
また、資材高騰分を価格に転嫁する取り組みは、改正建設業法でも後押しされています。価格交渉の進め方や法改正の中身は「値上げを言い出せない建設業者へ|資材高を「価格転嫁」する武器=改正建設業法とは」で詳しく解説しています。
行政書士にできること・できないこと
スライド条項の請求には、様式の作成や証明書類の整理が必要になります。行政書士がお手伝いできるのは、発注者に提出する様式の作成と、納品書・請求書・領収書などの証明書類の整理までです。
一方で、発注者との金額交渉そのものを代理したり、協議がまとまらず争いになった場合に対応したりすることはできません。これらは弁護士の業務になります。
よくある質問(FAQ)
単品スライドと全体スライドは、どちらか一方しか使えませんか?
併用できます。インフレスライドと単品スライドも併用できます。全体スライドまたはインフレスライドを使っている期間は、単品スライドの1%の自己負担は求められません。
工期が12ヶ月以下の工事でも、スライド条項は使えますか?
単品スライドとインフレスライドは、工期の長さにかかわらず使えます(どちらも残工期2ヶ月以上が条件)。全体スライドは、工期が12ヶ月を超える工事で、契約締結から12ヶ月経過後が対象です(すでに全体スライドかインフレスライドで変更している場合は、その変更で基準にした日から12ヶ月経過後)。
単品スライドは、いつまでに請求すればよいですか?
神奈川県の工事では、原則として工期末の2ヶ月前までです。請求した時点にかかわらず、工事開始日以降に調達した品目がスライドの対象になります。
資材の価格が下がった場合は、どうなりますか?
発注者から減額を求められることがあります。スライド条項は、発注者・受注者のどちらからでも請求できる仕組みです。
まとめ:3つのスライド条項は使い分け・併用ができる
- 特定の資材だけが急に値上がりした → 単品スライド
- 契約から時間が経ち、資材や労務費がじわじわ全体的に上がった → 全体スライド
- 短期間で急激なインフレ(またはデフレ)が起きた → インフレスライド
どれも「残工期が2ヶ月以上あること」が条件です(インフレスライドは基準日から数えます)。まずはご自身の工事の残工期を確認するところから始めてみてください。
請求してから金額が確定するまでは、請求→協議→発注者の確認・確定という流れです。必ず増額されると決まっているわけではありません。それでも、条件がそろえば請求できる仕組みは、契約書に最初から書かれています。
まずは書類の整理からご相談ください
「うちの工事でスライドを請求できそうか」「何をそろえればいいのか」——そんな段階でも大丈夫です。
やさしい行政書士事務所のご相談は、次の3ステップで進めます。
- ヒアリング(工事の内容・値上がりした資材・工期を伺います)
- 証明書類の棚卸し(納品書・請求書・領収書など、何がそろっていて何が足りないかを整理します)
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この記事の執筆・監修
やさしい行政書士事務所 代表行政書士 宮本 雄介
神奈川県秦野市の行政書士事務所です。建設業許可・経営事項審査・入札参加資格を中心に、神奈川県央エリアの建設業者さまの手続きをお手伝いしています。本記事は、国土交通省・神奈川県が公表しているスライド条項の資料にあたって作成し、公開前に第三者視点での反証チェックを行っています。
- 住所:〒257-0003 神奈川県秦野市南矢名2123-1 オレンジハイツ今井2E
- 電話:0463-57-8330
出典
本記事は2026年9月11日時点で公表されている、以下の国土交通省・神奈川県の資料に基づいています。制度の運用は変わる可能性があるため、実際に請求する際は必ず発注機関(監督員)にご確認ください。
- 国土交通省「各種スライド条項(全体スライド、単品スライド、インフレスライド)について」 https://www.mlit.go.jp/tec/tec_tk_000101.html
- 同「規定、直轄工事における取り扱い」 https://www.mlit.go.jp/tec/content/001572775.pdf
- 同「計算例(単品スライドとインフレスライド)」 https://www.mlit.go.jp/tec/content/001572724.pdf
- 同「スライド条項に関するFAQ(令和4年12月)」 https://www.mlit.go.jp/tec/content/001577480.pdf
- 国土交通省「工事請負契約書第26条第5項(単品スライド条項)の運用改定について」 https://www.mlit.go.jp/tec/tec_fr_000105.html
- 神奈川県「神奈川県公共工事標準請負契約約款第26条(スライド条項)について」 https://www.pref.kanagawa.jp/docs/m2t/cnt/f4317/p1005767.html
- 神奈川県「工事請負契約第26条第1項(全体スライド)の増額となる場合の申請手続き等について」 https://www.pref.kanagawa.jp/docs/g7r/cnt/f537210/p1176487.html
- 神奈川県「単品スライド条項運用マニュアル」 https://www.pref.kanagawa.jp/docs/g7r/cnt/f537210/p1176485.html (マニュアル本体:平成20年7月・令和4年10月1日改正 https://www.pref.kanagawa.jp/documents/15996/tanpinslide-unyor8.pdf )
- 神奈川県「インフレスライド条項によるスライド額の算定等について」 https://www.pref.kanagawa.jp/docs/g7r/cnt/f537210/p1176477.html
- 神奈川県「スライド制度を活用してください」(令和5年3月16日改訂・スライド適用判定フロー) https://www.pref.kanagawa.jp/documents/15992/suraido_chirashi.pdf
※本記事は2026年9月11日時点で確認できた国土交通省・神奈川県の公表資料にもとづいています。運用は変わることがあるため、実際に請求する際は発注機関(監督員)にご確認ください。市町村が発注する工事は、その市町村の契約書と運用をご確認ください。個別の事情については、当事務所までお問い合わせください。