「鉄骨も、生コンも、また値上がりしている。でも今さら元請けには言い出せない…」
そうやって高騰分を自腹で飲み込んでいる社長さん、多いのではないでしょうか。
実はその我慢、契約書に「スライド条項」という一文を書いておくだけで、変えられるかもしれません。
スライド条項とは、資材や労務費が一定以上値上がりしたときに、請負代金を見直せる仕組みを契約書にあらかじめ書いておく条項のこと。
今日は、その書き方・条文例を、全体スライド・単品スライド・インフレスライドの3種類に分けてやさしく解説します。😊
- スライド条項が今、なぜ契約書に必要なのか(改正建設業法との関係)
- 全体・単品・インフレ、3種類の違いと選び方
- そのまま使える条文例(ひな形)と、盛り込むべき5つの要素
秦野市で建設業のお客様を多く担当している行政書士が解説します。
目次
スライド条項とは?「言った言わない」を条文にする仕組み
スライド条項とは、資材価格や労務費が契約時から大きく変動した場合に、請負代金を見直す(スライドさせる)ための手続きを、あらかじめ契約書に定めておく条項です。
「値上がりしたら相談する」という口約束ではなく、「どんな条件がそろったら」「どういう手順で」代金を見直すのかを、条文として書いておく。
これがあるかないかで、値上げ交渉のやりやすさはまったく変わってきます。

この「値上げできる仕組み」が、今まさに注目されている背景があります。
「変更方法を書く」とざっくり言われても、実際に何をどう書けばいいのか分かりにくいですよね。
その「変更方法」を具体的な条文に落とし込んだものが、まさにスライド条項です。
スライド条項があれば、資材が値上がりしたときに「契約書の第◯条に基づいて、請負代金の変更を協議したい」と、条文を根拠に切り出せます。
「言った・言わない」の水掛け論にならず、堂々と請求の土台に立てる。これが最大のメリットです。
3種類のスライド条項の違い【全体/単品/インフレ】
スライド条項には、大きく分けて3つのタイプがあります。もともとは公共工事の契約実務の中で運用されてきた考え方ですが、民間工事の契約書に組み込む際の設計図としても参考になります。

| タイプ | 発動のきっかけ | 対象範囲 | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| 全体スライド | 工事全体の物価水準が、あらかじめ定めた基準を超えて変動したとき | 残工事全体の請負代金 | 工期が長く、資材以外も含め全般的にコストが上がっている工事 |
| 単品スライド | 特定の主要資材(鋼材・銅・燃料等)だけが急激に値上がりしたとき | その資材にかかる差額分のみ | 鉄骨工事・設備工事など、特定資材の比重が大きい工事 |
| インフレスライド | 多品目にわたり短期間で急激な価格上昇が生じたとき | 全体スライド・単品スライドでは対応しきれない急騰分 | 近年のような、資材全般が短期間で連続的に高騰する局面 |
民間の受注者はどれを選ぶべきか
公共工事のように3種類をきっちり使い分ける必要は、民間工事では必ずしもありません。まずは自社の工事の実態に合わせて、1つか2つを組み合わせて契約書に落とし込むのが現実的です。
目安としては、こんな考え方ができます。
- 鉄骨工事・設備工事など、特定資材への依存度が高い → 単品スライド型を軸に
- 工期の長い大型工事で、資材・労務費全般が緩やかに上がっていく → 全体スライド型を軸に
- 短期間で複数の資材が一気に高騰するリスクを幅広くカバーしたい → 協議+スライド併用型(後述)
「うちはどれに当てはまるか分からない」という場合は、まず協議手続を軸にした併用型から始めるのが無難です。次の章で条文例を紹介します。
民間工事では「契約書に書いてあるか」がすべて
ここで、公共工事と民間工事の大きな違いを押さえておく必要があります。

公共工事標準請負契約約款には、物価変動等に基づく請負代金額の変更(いわゆるスライド条項)が置かれています。国や自治体が発注する工事では、この約款がベースになっていることが多く、スライドの仕組みそのものは既に用意されています。
一方、民間工事はどうでしょうか。
民間工事でよく使われる約款(七会連合協定工事請負契約約款)も改正が重ねられており、令和7年12月12日改正版が最新版として公開されています。ただし民間工事では、当事者間で個別に契約書を作成しているケースも多く、約款を使うかどうか自体が任意です。
だからこそ、改正建設業法で契約書の記載事項になったこのタイミングで、自社の契約書にスライド条項を組み込んでおく価値があるのです。
スライド条項の書き方・条文例(ひな形)
ここからは、実際に契約書に書き込む条文の例を紹介します。📋

条文例①:全体スライド型
工期が長く、工事全体のコストが全般的に変動する可能性がある場合の条文イメージです。
第◯条(請負代金額の変更・全体スライド) 1. 甲及び乙は、本契約締結後、賃金水準又は物価水準の変動により、本工事の請負代金額が著しく不適当となったと認めるときは、相手方に対し、請負代金額の変更を請求することができる。 2. 前項の請求は、契約締結日を基準日として、乙が別途甲に提示する資料に基づき算出した変動率が、あらかじめ甲乙間で定める割合を超えた場合に行うことができるものとする。 3. 前項の請求を受けた甲又は乙は、速やかに協議に応じるものとし、変更後の請負代金額は協議により定める。 4. 本条による請負代金額の変更は、残工事に係る部分についてのみ適用するものとする。
条文例②:単品スライド型
鋼材・銅・燃料など、特定の資材の急激な値上がりに絞って手当てしたい場合の条文イメージです。
第◯条(請負代金額の変更・単品スライド) 1. 本工事に使用する主要な資材(別紙記載のものをいう。以下「対象資材」という。)の価格が、契約締結時と比較してあらかじめ甲乙間で定める割合を超えて上昇した場合、乙は甲に対し、当該上昇分に相当する請負代金額の変更を請求することができる。 2. 前項の請求にあたり、乙は対象資材の価格変動を証する資料(見積書、単価表、公的統計等)を甲に提示するものとする。 3. 甲は、前項の請求を受けたときは、誠実にその内容を検討し、協議に応じるものとする。 4. 本条による変更額は、対象資材の値上がり分に限定し、他の費目には影響しないものとする。
条文例③:協議+スライド併用型
どのタイプにも当てはまるか判断がつかない場合、まずはこの併用型から契約書に組み込むのが実務的です。
第◯条(資材価格等の変動に伴う請負代金額の協議) 1. 乙は、本契約締結後、資材価格又は労務費の高騰により工事原価が増加するおそれがあると認めるときは、その旨を書面(電磁的方法を含む。)により甲にあらかじめ通知することができる。 2. 前項の通知後、実際に資材価格又は労務費が高騰し、請負代金額が不適当となったと乙が判断したときは、乙は甲に対し、請負代金額の変更協議を申し出ることができる。 3. 甲は、前項の申出を受けたときは、正当な理由なく協議を拒んではならず、誠実に協議に応じるものとする。 4. 協議が調わないときの取扱いについては、甲乙別途協議のうえ定める。
盛り込むべき5つの要素
どのタイプを選ぶにせよ、条文には次の5つの要素を入れておくと、実際に使える条項になります。
- ①基準となる指標:何をもって「値上がり」と判断するか(公的な物価指数、資材メーカーの単価表、見積書など)
- ②発動ライン(変動幅):どの程度変動したら協議・変更請求ができるのか
- ③請求手続と協議:誰が、どんな資料をつけて、どう申し出るか。相手方の対応義務(誠実協議など)
- ④基準日・起算日:契約締結日など、変動を測る「基準となる時点」をいつにするか
- ⑤上限・端数処理:変更額に上限を設けるか、端数はどう処理するか
📥 この条文例集(3パターン+5要素チェックシート付き)は、Wordファイルでダウンロードできます
※条文例は参考例です。個別の工事・取引関係に応じた調整が必要です。
もう契約してしまった工事には使えない?
「うちは今の契約書にスライド条項なんて入っていない。もう手遅れですか?」と聞かれることがあります。
結論から言うと、諦める必要はありません。いくつかの選択肢があります。
- 残工事があるなら変更契約・覚書で追加:工期の長い工事で、まだ完成していない部分が残っているなら、その部分について変更契約・覚書でスライド条項を後付けすることを、相手方と協議する余地があります。
- 継続的な取引の次回契約から反映:同じ元請けと継続的に取引があるなら、次の発注・次の契約書からスライド条項を組み込んでいく形が現実的です。
- 既に完了・進行中の部分は個別協議:契約書に条項がない部分については、改正建設業法が求める「誠実に協議に応じる」という考え方を踏まえつつ、個別に値上げ協議を申し出ることになります。ただし、契約書に根拠がない分、交渉のハードルは条項がある場合より高くなります。
スライド条項だけでは足りないとき
スライド条項は「値上げできる仕組み」を作る、いわば土台です。ただ、これだけで資材高騰への対応がすべて完結するわけではありません。
改正建設業法には、スライド条項の前提となる「誠実協議義務」や、労務費の買いたたきを防ぐ「労務費に関する基準」(いわゆる標準労務費)といった、他の武器も用意されています。
そのあたりの全体像は、当事務所の別記事「値上げを言い出せない建設業者へ|資材高を「価格転嫁」する武器=改正建設業法とは」で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
また、協議には時間がかかることもあります。その間の資金繰りについてはセーフティネット保証5号、資材費・労務費の負担そのものを圧縮する方向としては設備投資補助金も、あわせて選択肢に入れておくと安心です。
なお、行政書士が行うのは契約書・覚書の作成までです。スライド条項が発動したあとの実際の金額交渉の代理や、こじれてしまった紛争の対応は行いません。紛争性のある案件については、弁護士をご案内します。
まとめ——「値上げできる仕組み」を、今のうちに契約書へ
資材高騰は、今後も簡単には収まりそうにありません。でも、契約書に「スライド条項」という値上げできる仕組みを書いておけば、値上がり分を自腹で飲み込み続ける必要はなくなります。
- 改正建設業法(2024年12月13日施行分)で、変更方法の記載が法定記載事項に
- 全体・単品・インフレの3タイプを、自社の工事に合わせて選ぶ・組み合わせる
- 民間工事では「契約書に書いてあるか」がすべて。約款があっても個別契約が優先されるケースも多い
- 盛り込むべきは5要素:指標・発動ライン・請求手続・基準日・上限
「うちの契約書、このままで大丈夫かな」
「条文例を見ても、自社に合わせてどう直せばいいか分からない」
そう思われたら、まずは一度お話を聞かせてください。📢

スライド条項を組み込んだ契約書・変更覚書の作成サポートを承っています。
やさしい行政書士事務所では、契約書へのスライド条項の組み込みから、既存契約への変更覚書の作成まで、無料相談で対応しています。「ブログを見た」とお伝えいただくとスムーズです。「聞くだけ」でも大丈夫です。😊
やさしい行政書士事務所(代表行政書士 宮本 雄介)
📞 電話:0463-57-8330
✉️ メール:お問い合わせフォームはこちら
💬 LINE:LINEで相談する
・国土交通省「スライド条項の運用に関する参考資料」等:https://www.mlit.go.jp/tec/tec_tk_000101.html
・神奈川県「工事請負契約に係る物価変動等に基づく契約変更(スライド条項)について」:https://www.pref.kanagawa.jp/docs/m2t/cnt/f4317/p1005767.html
・民間(七会)連合協定工事請負契約約款:令和7年12月12日改正版が最新版として公開されています(民間(七会)連合協定工事請負契約約款委員会)。
・国土交通省「建設業法・入契法改正(令和6年法律第49号)について」:建設業法・入契法改正のページ
※本記事は2026年7月時点で確認できる公開情報をもとに、代表行政書士 宮本 雄介が執筆・監修しています。スライド条項の発動基準・変動幅・条文の細部は、発注者・契約類型・工事内容により異なります。実際の契約書作成にあたっては、最新の一次情報のご確認、または個別のご相談をおすすめします。本記事の条文例は参考例であり、そのままご使用いただくものではなく、個別の工事・取引関係に応じた調整が必要です。
※当事務所が行うのは契約書・変更覚書の作成までです。スライド条項発動後の金額交渉の代理、紛争性のある案件の対応は行っておりません(紛争性のある案件は弁護士をご案内します)。