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スライド条項の書き方・条文例【全体/単品/インフレ】|民間工事の契約書に「値上げできる仕組み」を組み込む方法

スライド条項の書き方・条文例|民間工事の契約書に値上げできる仕組みを組み込む方法

「鉄骨も、生コンも、また値上がりしている。でも今さら元請けには言い出せない…」

そうやって高騰分を自腹で飲み込んでいる社長さん、多いのではないでしょうか。

実はその我慢、契約書に「スライド条項」という一文を書いておくだけで、変えられるかもしれません。

スライド条項とは、資材や労務費が一定以上値上がりしたときに、請負代金を見直せる仕組みを契約書にあらかじめ書いておく条項のこと。
今日は、その書き方・条文例を、全体スライド・単品スライド・インフレスライドの3種類に分けてやさしく解説します。😊

📋 この記事でわかること
  • スライド条項が今、なぜ契約書に必要なのか(改正建設業法との関係)
  • 全体・単品・インフレ、3種類の違いと選び方
  • 自社用に調整して使える条文例(ひな形)と、盛り込むべき5つの要素

秦野市で建設業のお客様を多く担当している行政書士が解説します。

スライド条項とは?「言った言わない」を条文にする仕組み

スライド条項とは、資材価格や労務費が契約時から大きく変動した場合に、請負代金を見直す(スライドさせる)ための手続きを、あらかじめ契約書に定めておく条項です。

「値上がりしたら相談する」という口約束ではなく、「どんな条件がそろったら」「どういう手順で」代金を見直すのかを、条文として書いておく。
これがあるかないかで、値上げ交渉のやりやすさはまったく変わってきます。

改正建設業法で、請負代金の変更について「その額の算定方法に関する定め」も契約書の記載事項と明確になったことを示す図

この「値上げできる仕組み」が、今まさに注目されている背景があります。

💡 改正建設業法(2024年12月13日施行分)で、物価の変動などに基づく請負代金の変更について、「その額の算定方法に関する定め」も契約書に書く事項であることが明確になりました(建設業法第19条第1項第8号)。値上がりしたときに代金をどう決めるかを契約書に書いておくことは、法律が求めていることなのです。

「変更方法を書く」とざっくり言われても、実際に何をどう書けばいいのか分かりにくいですよね。
その「変更方法」を具体的な条文に落とし込んだものが、まさにスライド条項です。

スライド条項があれば、資材が値上がりしたときに「契約書の第◯条に基づいて、請負代金の変更を協議したい」と、条文を根拠に切り出せます。
「言った・言わない」の水掛け論にならず、堂々と請求の土台に立てる。これが最大のメリットです。

3種類のスライド条項の違い【全体/単品/インフレ】

スライド条項には、大きく分けて3つのタイプがあります。もともとは公共工事の契約実務の中で運用されてきた考え方ですが、民間工事の契約書に組み込む際の設計図としても参考になります。

全体スライド・単品スライド・インフレスライドの3種類の違いを比較する表
タイプ 発動のきっかけ 対象範囲 向いている場面
全体スライド 工事全体の物価水準が、あらかじめ定めた基準を超えて変動したとき 残工事全体の請負代金 工期が長く、資材以外も含め全般的にコストが上がっている工事
単品スライド 特定の主要資材(鋼材・銅・燃料等)だけが急激に値上がりしたとき その資材にかかる差額分のみ 鉄骨工事・設備工事など、特定資材の比重が大きい工事
インフレスライド 多品目にわたり短期間で急激な価格上昇が生じたとき 基準日(請求日が基本)以降の残工事全体(資材・労務単価など) 近年のような、資材全般が短期間で連続的に高騰する局面
⚠️ 発動の基準となる変動幅(%)や算定方法は、発注者・契約類型ごとに運用が異なります。本記事では仕組みの考え方をお伝えしていますが、具体的な数値基準は契約書に定める際に個別設計するか、最新の一次情報でご確認ください。

国の直轄工事や神奈川県の工事(公共工事)で、3つのスライドの違い(使える工事・受注者の負担1.5%/1%・請求の手順)を知りたい方は、別記事で詳しく解説しています。
👉 単品スライド・全体スライド・インフレスライドの違い|どれで請求できる?

民間の受注者はどれを選ぶべきか

公共工事のように3種類をきっちり使い分ける必要は、民間工事では必ずしもありません。まずは自社の工事の実態に合わせて、1つか2つを組み合わせて契約書に落とし込むのが現実的です。

目安としては、こんな考え方ができます。

  • 鉄骨工事・設備工事など、特定資材への依存度が高い → 単品スライド型を軸に
  • 工期の長い大型工事で、資材・労務費全般が緩やかに上がっていく → 全体スライド型を軸に
  • 短期間で複数の資材が一気に高騰するリスクを幅広くカバーしたい → 協議+スライド併用型(後述)

「うちはどれに当てはまるか分からない」という場合は、まず協議手続を軸にした併用型から始めるのが無難です。次の章で条文例を紹介します。

民間工事では「契約書に書いてあるか」がすべて

ここで、公共工事と民間工事の大きな違いを押さえておく必要があります。

民間工事と公共工事でスライド条項の扱いが異なることを示すイメージ図

公共工事標準請負契約約款には、物価変動等に基づく請負代金額の変更(いわゆるスライド条項)が置かれています。国や自治体が発注する工事では、この約款がベースになっていることが多く、スライドの仕組みそのものは既に用意されています。

一方、民間工事はどうでしょうか。

民間工事でよく使われる約款(七会連合協定工事請負契約約款)も改正が重ねられており、令和7年12月12日改正版が最新版として公開されています。ただし民間工事では、当事者間で個別に契約書を作成しているケースも多く、約款を使うかどうか自体が任意です。

🚨 つまり民間工事では、「スライド条項が使えるかどうか」は法律が自動的に決めてくれるものではなく、自社の契約書に書いてあるかどうかで決まります。書いていなければ、値上がりしても「協議してほしい」とお願いする以上の根拠がありません。

だからこそ、改正建設業法で「その額の算定方法」まで契約書の記載事項と明確になったこのタイミングで、自社の契約書にスライド条項を組み込んでおく価値があるのです。

契約書全体に書く事項(建設業法19条1項の記載事項)や、注文書・請書で契約するときの要件は、「工事請負契約書の書き方|建設業法19条の記載事項と注文書・請書・押印のルール」で整理しています。

スライド条項の書き方・条文例(ひな形)

ここからは、実際に契約書に書き込む条文の例を紹介します。📋

スライド条項に盛り込むべき5つの要素を示す図
⚠️ 以下の条文例はあくまで参考例です。実際にお使いいただく際は、個別の工事内容・取引関係・発注者との力関係に応じて、文言や基準値を調整する必要があります。そのまま貼り付けて使うのではなく、ひな形としてご活用ください。

条文例①:全体スライド型

工期が長く、工事全体のコストが全般的に変動する可能性がある場合の条文イメージです。

第◯条(請負代金額の変更・全体スライド)
1. 甲及び乙は、本契約締結後、賃金水準又は物価水準の変動により、本工事の請負代金額が著しく不適当となったと認めるときは、相手方に対し、請負代金額の変更を請求することができる。
2. 前項の請求は、契約締結日を基準日として、乙が別途甲に提示する資料に基づき算出した変動率が、あらかじめ甲乙間で定める割合を超えた場合に行うことができるものとする。
3. 前項の請求を受けた甲又は乙は、速やかに協議に応じるものとし、変更後の請負代金額は協議により定める。
4. 本条による請負代金額の変更は、残工事に係る部分についてのみ適用するものとする。

条文例②:単品スライド型

鋼材・銅・燃料など、特定の資材の急激な値上がりに絞って手当てしたい場合の条文イメージです。

第◯条(請負代金額の変更・単品スライド)
1. 本工事に使用する主要な資材(別紙記載のものをいう。以下「対象資材」という。)の価格が、契約締結時と比較してあらかじめ甲乙間で定める割合を超えて上昇した場合、乙は甲に対し、当該上昇分に相当する請負代金額の変更を請求することができる。
2. 前項の請求にあたり、乙は対象資材の価格変動を証する資料(見積書、単価表、公的統計等)を甲に提示するものとする。
3. 甲は、前項の請求を受けたときは、誠実にその内容を検討し、協議に応じるものとする。
4. 本条による変更額は、対象資材の値上がり分に限定し、他の費目には影響しないものとする。

条文例③:協議+スライド併用型

どのタイプにも当てはまるか判断がつかない場合、まずはこの併用型から契約書に組み込むのが実務的です。

第◯条(資材価格等の変動に伴う請負代金額の協議)
1. 乙は、本契約締結後、資材価格又は労務費の高騰により工事原価が増加するおそれがあると認めるときは、その旨を書面(電磁的方法を含む。)により甲にあらかじめ通知することができる。
2. 資材価格又は労務費が高騰し、請負代金額が不適当となったと乙が判断したときは、前項の通知の有無にかかわらず、乙は甲に対し、請負代金額の変更協議を申し出ることができる。
3. 甲は、前項の申出を受けたときは、正当な理由なく協議を拒んではならず、誠実に協議に応じるものとする。
4. 協議が調わないときの取扱いについては、甲乙別途協議のうえ定める。

※1項の通知は、契約後に気づいた値上がりの見通しを早めに伝えるためのものです。建設業法が求める契約前の通知(第20条の2第2項)の代わりにはなりません。2項は、この通知をしていなくても協議を申し出られる形にしています。

盛り込むべき5つの要素

どのタイプを選ぶにせよ、条文には次の5つの要素を入れておくと、実際に使える条項になります。

  • ①基準となる指標:何をもって「値上がり」と判断するか(公的な物価指数、資材メーカーの単価表、見積書など)
  • ②発動ライン(変動幅):どの程度変動したら協議・変更請求ができるのか
  • ③請求手続と協議:誰が、どんな資料をつけて、どう申し出るか。相手方の対応義務(誠実協議など)
  • ④基準日・起算日:契約締結日など、変動を測る「基準となる時点」をいつにするか
  • ⑤上限・端数処理:変更額に上限を設けるか、端数はどう処理するか
💡 この5要素が空欄のまま「物価変動があった場合は協議する」とだけ書いてある契約書、実はとても多いんです。それだと、いざという時に基準がなく、結局「言った・言わない」に逆戻りしてしまいます。

📥 この条文例集(3パターン+5要素チェックシート付き)は、Wordファイルでダウンロードできます

条文例集をダウンロード(Word形式・無料)

※条文例は参考例です。個別の工事・取引関係に応じた調整が必要です。

もう契約してしまった工事には使えない?

「うちは今の契約書にスライド条項なんて入っていない。もう手遅れですか?」と聞かれることがあります。

結論から言うと、諦める必要はありません。いくつかの選択肢があります。

  • 残工事があるなら変更契約・覚書で追加:工期の長い工事で、まだ完成していない部分が残っているなら、その部分について変更契約・覚書でスライド条項を後付けすることを、相手方と協議する余地があります。
  • 継続的な取引の次回契約から反映:同じ元請けと継続的に取引があるなら、次の発注・次の契約書からスライド条項を組み込んでいく形が現実的です。
  • 既に完了・進行中の部分は個別協議:契約書に条項がない部分については、改正建設業法が求める「誠実に協議に応じる」という考え方を踏まえつつ、個別に値上げ協議を申し出ることになります。ただし、契約書に根拠がない分、交渉のハードルは条項がある場合より高くなります。
⚠️ 変更契約・覚書でスライド条項を後から追加する場合も、相手方の合意が必要です。一方的に追加できるものではない点にご注意ください。

スライド条項だけでは足りないとき

スライド条項は「値上げできる仕組み」を作る、いわば土台です。ただ、これだけで資材高騰への対応がすべて完結するわけではありません。

改正建設業法には、スライド条項とあわせて使える仕組みもあります。受注者は、資材の高騰などのおそれがあると認めるときは、契約を結ぶ前に注文者へ通知しなければなりません。通知した事象が契約後に実際に起きたときは、契約書に定めた変更方法に従って、請負代金の変更などの協議を申し出ることができます。注文者は、申出に根拠がない場合など正当な理由があるときを除き、誠実に協議に応じるよう努めなければなりません。民間工事の注文者にとっては努力義務です(公共工事の発注者には、誠実に協議に応じる義務があります)。労務費の買いたたきを防ぐ「労務費に関する基準」(いわゆる標準労務費)も、そうした仕組みの一つです。
そのあたりの全体像は、当事務所の別記事「値上げを言い出せない建設業者へ|資材高を「価格転嫁」する武器=改正建設業法とは」で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

「労務費に関する基準」そのものの中身——実際の金額の出し方や、労務費とは別に見積書へ書くべき3つの経費については「建設業の労務費の基準(標準労務費)とは?神奈川の実数と3ステップ」にまとめています。

また、協議には時間がかかることもあります。その間の資金繰りについてはセーフティネット保証5号、資材費・労務費の負担そのものを圧縮する方向としては設備投資補助金も、あわせて選択肢に入れておくと安心です。

💡 「条項を作る」だけがゴールではなく、「条項があるから請求できる→資金繰りも安定する→経営が安定する」まで含めて考えるのがポイントです。

なお、行政書士が行うのは契約書・覚書の作成までです。スライド条項が発動したあとの実際の金額交渉の代理や、こじれてしまった紛争の対応は行いません。紛争性のある案件については、弁護士をご案内します。

まとめ——「値上げできる仕組み」を、今のうちに契約書へ

資材高騰は、今後も簡単には収まりそうにありません。でも、契約書に「スライド条項」という値上げできる仕組みを書いておけば、値上がり分を自腹で飲み込み続ける必要はなくなります。

  • 改正建設業法(2024年12月13日施行分)で、変更の額の算定方法も契約書の記載事項と明確に
  • 全体・単品・インフレの3タイプを、自社の工事に合わせて選ぶ・組み合わせる
  • 民間工事では「契約書に書いてあるか」がすべて。約款があっても個別契約が優先されるケースも多い
  • 盛り込むべきは5要素:指標・発動ライン・請求手続・基準日・上限

「うちの契約書、このままで大丈夫かな」
「条文例を見ても、自社に合わせてどう直せばいいか分からない」

そう思われたら、まずは一度お話を聞かせてください。📢

スライド条項を組み込んだ契約書・変更覚書の作成サポートのご案内

スライド条項を組み込んだ契約書・変更覚書の作成サポートを承っています。

やさしい行政書士事務所では、契約書へのスライド条項の組み込みから、既存契約への変更覚書の作成まで、無料相談で対応しています。「ブログを見た」とお伝えいただくとスムーズです。「聞くだけ」でも大丈夫です。😊

やさしい行政書士事務所(代表行政書士 宮本 雄介)

📞 電話:0463-57-8330

✉️ メール:お問い合わせフォームはこちら

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出典
・国土交通省「各種スライド条項(全体スライド、単品スライド、インフレスライド)について」:https://www.mlit.go.jp/tec/tec_tk_000101.html
・神奈川県「神奈川県公共工事標準請負契約約款第26条(スライド条項)について」:https://www.pref.kanagawa.jp/docs/m2t/cnt/f4317/p1005767.html
・民間(七会)連合協定工事請負契約約款:令和7年12月12日改正版が最新版として公開されています(民間(七会)連合協定工事請負契約約款委員会)。
・国土交通省「建設業法・入契法改正(令和6年法律第49号)について」:建設業法・入契法改正のページ

※本記事は2026年7月時点で確認できる公開情報をもとに、代表行政書士 宮本 雄介が執筆・監修しています。スライド条項の発動基準・変動幅・条文の細部は、発注者・契約類型・工事内容により異なります。実際の契約書作成にあたっては、最新の一次情報のご確認、または個別のご相談をおすすめします。本記事の条文例は参考例であり、そのままご使用いただくものではなく、個別の工事・取引関係に応じた調整が必要です。

※当事務所が行うのは契約書・変更覚書の作成までです。スライド条項発動後の金額交渉の代理、紛争性のある案件の対応は行っておりません(紛争性のある案件は弁護士をご案内します)。
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宮本 雄介
やさしい行政書士事務所 代表。行政書士(登録番号 第12082434号/神奈川県行政書士会所属)。2011年に行政書士試験に合格し、2012年に開業。以来1,000件以上の相談に対応してきました。建設業許可・経営事項審査(経審)、補助金、会社設立、在留資格、相続を取り扱い、なかでも建設業の許認可を中心にしています。弁護士事務所・社労士事務所での実務経験と、複数企業の社外取締役の経験を持ち、手続きの代行だけでなく経営の視点からも助言します。神奈川県秦野市を拠点に、県内を中心に全国の事業者をサポートしています。