建設業

建設業の資金繰りが苦しい|その借り方、許可と経審の点数まで削っています

建設業の資金繰りが苦しい。順番を間違えると許可と経審の点数まで失う

来月末に、大きな入金がある。でも、材料代の引き落としは今週末。職人さんへの支払いは25日。

通帳を見て、電卓を叩いて、また通帳を見る。仕事はある。赤字でもない。なのに、手元の現金だけがいつも足りない。

建設業の資金繰りが苦しいのは、社長の経営が下手だからではありません。先に払って、後でもらうという、この業界の構造そのものが原因です。

ただ、ひとつだけ注意していただきたいことがあります。

資金繰りが苦しくなると、多くの方が「すぐ現金化できる方法」から手をつけます。実はここが、建設業にとって一番危ない入口です。

建設業では、お金の借り方・回し方が、そのまま「許可」と「入札のランク」に跳ね返ることがあります。急いで選んだ一手が、半年後に許可の更新や経営事項審査(経審=公共工事の入札に必要な会社の評価)を直撃することがあるのです。

この記事でわかること

  • 建設業の資金繰りだけにある「2つの地雷」(特定建設業の流動比率75%・経審Y点の支払利息)
  • 手数料が安く、許可と点数を傷つけない打ち手の順番(5ステップ)
  • 前払金4割+中間前金払2割と、建設業法が定める下請代金の支払ルールの使い方
  • ファクタリングと補助金を、いつ・どう位置づけるか

執筆・監修

やさしい行政書士事務所 代表行政書士 宮本 雄介(神奈川県行政書士会所属/登録番号 第12082434号)

秦野市を拠点に、神奈川県内の建設業者さまから建設業許可・決算変更届・経営事項審査のご相談をお受けしています。

本記事の法令は、e-Gov法令検索で建設業法の現行条文(第24条の3・第24条の6)を、運用は国土交通省「建設業法令遵守ガイドライン」(令和8年1月改正)を確認したうえで記載しています。許可要件は神奈川県『建設業許可申請の手引き(令和8年度版)』、経審は同『経営事項審査の手引き(令和8年7月1日版)』によります(2026年8月20日確認)。

目次

まず落ち着いてください。「黒字なのにお金がない」は建設業の宿命です

先に払って、後でもらう仕事だから

建設業のお金の流れは、こうなっています。材料を仕入れる(先払い)。職人さん・下請さんに払う(ほぼ毎月)。工事が完成する。検査が終わる。ようやく入金(数か月後)。

建設業は材料費と労務費を先に支払い、工事が完成して検査が終わってから入金される。支払いと入金のズレを社長の手元資金が埋めている構造

売上が立った月と、現金が入る月がズレます。このズレを埋めているのが、社長の手元資金です。

工事が大きくなるほど、穴は深くなる

しかも、このズレは受注が増えるほど大きくなります

大きな工事を取れた。うれしい。けれど、その工事の材料費と労務費を先に立て替える必要がある。つまり「忙しいのに、いちばん苦しい」という状態が起きます。

売上が伸びている会社ほど資金繰りが苦しくなるのは、建設業では珍しいことではありません。

赤字でなくても会社は止まる

決算書が黒字でも、支払日に現金がなければ会社は止まります。これがよく言われる「黒字倒産」です。だからこそ、損益(もうけ)とは別に、現金の動きを見る必要があります。

建設業の資金繰りには、他業種にない「2つの地雷」があります

ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。

建設業の資金繰りの2つの地雷。短期借入の積み増しは特定建設業の流動比率75%以上の要件に効き、支払利息は経営状況分析Y点の寄与度29.9%を占める純支払利息比率に効く

地雷1:短期の借入を積むと、特定建設業の許可が危なくなる

建設業許可には「財産的基礎」という要件があります。神奈川県の手引きでは、こう定められています。

一般建設業(法第7条第4号)次の①〜③のいずれかに当てはまればOK
直前の決算で自己資本が500万円以上
500万円以上の資金調達能力がある(銀行の残高証明書で確認)
直前5年間、許可を受けて継続して営業した実績がある
特定建設業(法第15条第3号)直前の決算で①〜③のすべてを満たすこと
① 欠損比率欠損の額が資本金の20%を超えないこと
② 流動比率流動資産合計 ÷ 流動負債合計 × 100 ≧ 75%
③ 資本金・自己資本資本金2,000万円以上 かつ 自己資本4,000万円以上

出典:神奈川県『建設業許可申請の手引き(令和8年度版)』P12〜13

ここで問題になるのが、②の流動比率です。

流動比率は、ざっくり言えば「1年以内に払うお金に対して、1年以内に入ってくるお金がどれだけあるか」。資金繰りが苦しくなって短期の借入(1年以内に返す借金)を積み増すと、分母だけが膨らんで比率が落ちます

一般建設業には③の「5年間継続して営業した実績」という逃げ道がありますが、特定建設業にはこの代替ルートがありません。つまり特定建設業許可を持っている会社は、直前の決算の数字そのものが、許可の可否に直結します。

元請として1件の工事で下請代金の総額が5,000万円以上(建築一式工事は8,000万円以上)となる下請契約を結ぶには、特定建設業の許可が必要です(法第3条/神奈川県手引き)。その規模で元請をしている会社にとって、特定建設業許可は生命線。そこが資金繰りの一手で揺らぐ、というのが1つ目の地雷です。

地雷2:支払利息は、経審の点数を「最も大きく」動かす

もうひとつが、経営事項審査(経審)です。経審の点数のうち、財務内容を評価するのが「経営状況分析(Y点)」。Y点は8つの指標から計算されますが、指標ごとに点数への影響力(寄与度)がまったく違います

区分指標寄与度ざっくり言うと
負債抵抗力純支払利息比率29.9%売上に対して利息をいくら払っているか
負債抵抗力負債回転期間11.4%借金が月商の何か月分あるか
収益性・効率性総資本売上総利益率21.4%粗利をどれだけ稼げているか
収益性・効率性売上高経常利益率5.7%売上に対する経常利益の割合
財務健全性自己資本対固定資産比率6.6%固定資産を自己資本でどれだけ賄えているか
財務健全性自己資本比率14.6%総資本のうち自分のお金の割合
絶対的力量営業キャッシュ・フロー(2年平均)5.7%本業で現金を稼げているか
絶対的力量利益剰余金4.4%これまでの利益の蓄積

出典:『建設業 経営事項審査制度 評点アップ対策』第4章。なお令和8年7月1日の経審改正は「その他の審査項目(社会性等=W点)」の変更で、経営状況分析(Y点)の指標そのものは変わっていません(神奈川県『経営事項審査の手引き 令和8年7月1日版』第1分冊「主な変更点」)。

注目していただきたいのは、純支払利息比率だけで約3割を占めていること。そして上位4指標だけで、Y点の7割近くが決まってしまうことです。

💡 高い金利で借りて資金繰りをつなぐと、その利息が経審の点数を直撃します。

しかも経審の点数は「審査基準日=事業年度の終了日(決算日)」の数字で決まります。一度出た結果は、審査基準日から1年7か月、公共工事を請け負える期間として効き続けます。

決算日の姿が、1年7か月ぶんの入札力を決める。だから建設業の資金繰りは、「何をするか」と同じくらい「いつ・どの順番でやるか」が大事なのです。

経審の点数の仕組みそのものは、経営事項審査の点数計算(P点の計算式と総合評定値の見方)入札参加資格の等級(ランク)と経審の関係で詳しく解説しています。

建設業の資金繰り、効く順番は「この5ステップ」

順番の考え方はシンプルです。手数料が安く、許可と経審に傷が残らないものから使う。

建設業の資金繰り対策を効く順番に並べた5ステップ。もらえるお金の回収、価格転嫁、公的な保証と無料相談、借入の長期化と利息の圧縮、最後に民間の資金化サービス
順番打ち手実質コスト許可・経審への影響
① 最初にすでに「もらえるはずのお金」を回収する(前払金・下請代金)ゼロ影響なし(むしろ改善)
値上げ分を工事代金に乗せる(価格転嫁・スライド条項)ゼロ粗利が増えてY点にプラス
公的な保証・融資、無料の相談窓口を使う低い借入だが低利=傷が浅い
借りるなら「短期」より「長期」、利息を削る流動比率・利息比率を守れる
⑤ 最後に民間の資金化サービス(ファクタリング等)高い手数料しだいで悪化

多くの方が①〜④を飛ばして、いきなり⑤を検索します。順番を戻すだけで、同じ金額を用意するコストが大きく変わることがあります。

ステップ①:まず「もらえるはずのお金」を取りに行く(手数料ゼロ)

いちばん安い資金調達は、もう自社のものになる(なるはずの)お金を、早く・確実に受け取ることです。

公共工事なら、前払金4割+中間前金払2割

公共工事には、着工前にお金を受け取れる制度があります。

公共工事の前金払は請負代金額の4割を着工前に受け取れる制度。中間前金払は工期の2分の1経過など4つの条件を満たすと2割を追加で受け取れる
  • 前金払(前払金):請負代金額の4割を工事着工前に支払い、資材の購入や労働者の確保にあてる制度
  • 中間前金払:当初の前払金(4割)に加えて、工期の半ばで2割を追加して受け取れる制度

中間前金払を受けるには、次の条件を満たす必要があります。

  1. 当初の前払金が支出済みであること
  2. 工期の2分の1を経過していること
  3. 工期の半ばまでの作業が完了していること
  4. 進捗出来高が請負金額の2分の1以上であること

出典:国土交通省 関東地方整備局「建設産業|2.資金繰り対策」

知らずに使っていない会社が、まだあります。発注機関の担当課、または契約約款を確認してください。

⚠️ 注意点が2つあります

(1)導入の有無・割合は発注機関ごとに違います。地方公共団体の工事でも導入されていますが、すべての発注者・すべての工事で同じとは限りません。実際の適用は契約約款や発注機関の要綱で必ずご確認ください(秦野市など個別自治体の運用は本記事では未確認です)。

(2)前払金は「その工事にしか使えません」。前払金保証は「公共工事の前払金保証事業に関する法律」に基づく制度で、保証会社には前払金が当該工事に適正に使われているかを監査する義務があります(東日本建設業保証株式会社「前払金保証制度について」)。他の工事の穴埋めや、別の支払いへの流用はできません。

元請が前払金をもらったら、下請にも回す「配慮義務」がある

ここは下請の立場の会社にぜひ知っておいてほしい条文です。

建設業法第24条の3第3項
元請負人は、前払金の支払を受けたときは、下請負人に対して、資材の購入、労働者の募集その他建設工事の着手に必要な費用を前払金として支払うよう適切な配慮をしなければならない。

「配慮しなければならない」という配慮義務の規定です。義務の強さは支払期日の規定ほどではありません。それでも、「元請さんは前払金を受け取っていますか?」と聞ける根拠があるというのは、交渉の場で大きな違いになります。

下請代金は「元請が支払を受けた日から1か月以内」

建設業法第24条の3第1項
元請負人は、請負代金の出来形部分に対する支払又は工事完成後における支払を受けたときは、当該支払の対象となつた建設工事を施工した下請負人に対して、(中略)当該支払を受けた日から一月以内で、かつ、できる限り短い期間内に支払わなければならない。

元請が施主から入金を受けたのに、下請への支払いを2か月も3か月も先にする——これは建設業法に反します。

元請が特定建設業者なら「50日以内」——ただし対象になる下請には条件があります

ここは「特定建設業者が相手なら全部50日」と誤解されやすいところなので、条文どおりに整理します。

  • 特定建設業者が注文者となった下請契約の支払期日は、引渡しの申出の日から起算して50日を経過する日以前で、かつできる限り短い期間内に定めなければならない(第24条の6第1項)
  • ただし、下請負人が特定建設業者、または資本金4,000万円以上の法人である場合は、この50日ルールの対象外です(同項かっこ書き)
  • 支払期日を定めなかったときは申出の日が、50日を超える期日を定めたときは申出の日から50日を経過する日が、支払期日とみなされる(同条第2項)
  • 支払期日までに支払わなかったときは、遅延利息を支払わなければならない(同条第4項)

出典:e-Gov法令検索『建設業法(昭和24年法律第100号)』第24条の3・第24条の6

「1か月以内」と「50日以内」は、早いほうが期限になります

2つのルールが同時にかかる場面があります。国土交通省のガイドラインは、次のようにはっきり整理しています。

特定建設業者の下請代金の支払期限については、注文者から出来高払又は竣工払を受けた日から1月を経過する日か、下請負人が引渡しの申出を行った日から起算して50日以内で定めた支払期日のいずれか早い期日となる。

国土交通省「建設業法令遵守ガイドライン」(令和8年1月改正)10.下請代金の支払

つまり、元請が施主から入金を受けてから1か月が先に来るなら1か月、引渡しの申出から50日が先に来るなら50日。遅いほうを待つ必要はありません。

60日を超える手形は、それだけで違反になり得ます

手形を渡されたとき、見るべきなのは金額ではなくサイト(現金化できるまでの期間)です。

  • 特定建設業者は、支払期日までに一般の金融機関で割引を受けることが困難と認められる手形を交付してはならない(第24条の6第3項)
  • ガイドラインは「元請負人が手形期間60日を超える長期手形を交付した場合は『割引を受けることが困難である手形の交付』と認められる場合があり、その場合には建設業法第24条の6第3項に違反する」としている
  • あわせて「下請代金の支払手段について」(令和3年3月31日 中庁第2号・公取企第25号=手形通達)でも、手形等のサイトは60日以内とするよう要請されている

出典:国土交通省「建設業法令遵守ガイドライン」(令和8年1月改正)11.長期手形/10-2.下請代金の支払手段等

労務費に相当する部分は「現金で」

建設業法第24条の3第2項
元請負人は、(中略)下請代金のうち労務費に相当する部分については、現金で支払うよう適切な配慮をしなければならない。

職人さんの手間賃にあたる部分を手形で渡されると、下請の資金繰りは一気に苦しくなります。その部分は現金で、というのが法の考え方です。

ガイドラインはさらに踏み込んで、「下請代金の支払はできる限り現金によるものとし、少なくとも労務費相当分(社会保険料の本人負担分を含む)を現金払とするような支払条件を設定する必要がある」としています(同ガイドライン10-2)。社会保険料の本人負担分まで含めて現金、という点は交渉の際に押さえておいてください。

角を立てずに聞くには

取引を続けたい相手に、いきなり「法律違反です」とは言いにくいものです。実務では、こう切り出す方が話が進みます。

「今期から支払サイトの管理を厳しくしていまして、御社からの入金予定日を確認させてください。もし元請さんの入金が済んでいるようでしたら、当社への支払いも合わせていただけると助かります。」

事実(入金の有無)を確認する形にすると、相手も動きやすくなります。

ステップ②:値上げ分を工事代金に乗せる

資材も、燃料も、人件費も上がりました。その上昇分を工事代金に反映できていないと、利益ではなく資金繰りが削られていきます。

  • 契約時にスライド条項(資材が急騰したときに代金を見直せる取り決め)を入れておく
  • 見積書の内訳を分解して、値上がりの根拠を示す
  • 労務費は、国が示す基準を踏まえて積算する

粗利の改善は、経審のY点でも寄与度21.4%を占める「総資本売上総利益率」に効きます。資金繰りと点数の両方に効く、数少ない打ち手です。

とはいえ、値上げの話ほど言い出しにくいものはありません。ここも「自社の都合」ではなく「国が示した基準」を理由にすると、話が通りやすくなります。

「見積の出し方を変えまして、労務費の内訳を分けて書くようにしています。国が労務費の基準を示したので、それに沿った積算に切り替えている最中です。単価の考え方だけ、一度ご相談させてください。」

詳しくは建設業の価格転嫁(改正建設業法で何が変わったか)スライド条項の書き方・ひな形労務費の基準(標準労務費)とはをご覧ください。

ステップ③:公的な保証・融資と「無料の相談窓口」を使う

セーフティネット保証5号

業況が悪化している業種を国が指定し、信用保証協会の保証を通常枠とは別枠で使えるようにする制度です。建設業も対象業種に入っています。認定申請の窓口は市区町村です。

制度の中身・認定要件・神奈川県で併用できる融資については、セーフティネット保証5号と建設業(認定要件と申請の流れ)でまとめています。

神奈川県中小企業活性化協議会(相談無料)

「返済がきつい」「銀行にどう話せばいいか分からない」という段階で使える、公的な相談窓口があります。

神奈川県中小企業活性化協議会

  • 設置:産業競争力強化法に基づき、関東経済産業局から公益財団法人 神奈川産業振興センターが委託を受けて設置
  • 内容:収益力改善、経営改善、事業再生、廃業・再チャレンジまで(第1次対応=課題の抽出とアドバイス/第2次対応=各フェーズの支援)
  • 相談料:無料
  • 場所:横浜市中区尾上町5-80 神奈川中小企業センタービル4階〜6階
  • 電話:045-633-5143

出典:公益財団法人 神奈川産業振興センター「神奈川県中小企業活性化協議会」

リスケ(返済条件の変更)は「逃げ」ではありません

毎月の返済を一時的に減らす・止めるという選択肢もあります。「銀行に見放される」と思われがちですが、手遅れになってから相談されるほうが、金融機関としては困ります。

早い段階で数字を持って相談に行くこと。それが、結果として会社と従業員を守ります。

ステップ④:借りるなら「短期」より「長期」、そして利息を削る

短期借入の積み増しは「二重の罰」になる

短期借入(1年以内に返す借金)を増やすと、こうなります。

  • 流動負債が増える → 他の条件が同じなら流動比率が下がる → 特定建設業の許可要件(75%以上)に接近する
  • 借金の総額が増える → 負債回転期間が悪化する(Y点の寄与度11.4%)
  • 金利が高ければ → 純支払利息比率が悪化する(Y点の寄与度29.9%)

同じ金額を借りるのでも、返済期間と金利の設計しだいで、決算書の見え方がまるで変わります。

⚠️ 「長期にすれば流動比率は無傷」ではありません。長期借入金でも、1年以内に返済予定の部分は流動負債に振り替わります(1年基準)。長期に借り換えたから安心、ではなく、決算日時点で「1年以内返済予定額」がいくら流動負債に乗るのかまで見てください。

役員借入金は「1年超なら固定負債」——ここは翻訳の問題です

社長が会社に貸しているお金(役員借入金)。これを機械的に流動負債に入れているケースがよくあります。

税務署に出す決算書と、建設業許可・経審に出す建設業財務諸表は「別モノ」です。決算書を建設業法・会計基準に沿って正しく「翻訳」するのが、行政書士の仕事のひとつです。

1年以内に入金・支払期限が到来するものは流動、1年を超えるものは固定に分類する(ワンイヤールール)。特定建設業許可の財産要件(流動比率75%以上)を満たすため、役員借入金や長期貸付金などの流動・固定の分類を厳密に確認・修正することが重要である。

『建設業者と行政書士のための 建設業財務諸表の最強ガイド』第2章

⚠️ これは数字を作り変える話ではありません。実態に合った正しい分類に直す、というだけの話です。経営事項審査の申請書や財務諸表に虚偽の記載をすれば、それ自体が重大な処分の対象になります(神奈川県『経営事項審査の手引き 令和8年7月1日版』「申請における注意点」)。

そして実務上のポイントがひとつ。「1年を超えて返さない」ことが書面で分かるようにしておいてください。金銭消費貸借契約書に返済期日や据置期間を定めておく、といった準備です。分類の根拠を求められたときに、その場で示せるかどうかで話が変わります。

動くなら、決算日の「前」

繰り返しになりますが、経審の点数は決算日(審査基準日)の数字で決まります。決算が締まってしまえば、その年の数字はもう動かせません。借り換え、返済条件の見直し、不要資産の整理——手を打つなら決算日の前です。

「うちの決算月は3月だから、動くのは年明けまでに」。そう逆算するだけで、翌年の経審が変わります。手順は経審のやり方(決算変更届から結果通知までの手順)にまとめています。

慎重に:ファクタリングと補助金は「特効薬」ではありません

ファクタリング:金融庁が注意喚起を出しています

売掛債権を期日前に買い取ってもらうサービスです。制度そのものが違法なわけではありません(法的には債権の売買契約です)。ただし、金融庁が正面から注意喚起を出しています。

🚨 金融庁「ファクタリングの利用に関する注意喚起」より

  • ファクタリングを装った高金利の貸付けを行うヤミ金融業者の存在が確認されている
  • 経済的に貸付けと同様の機能を有するものは、貸金業に該当するおそれがある
  • 債権の買取代金が債権額に比べて著しく低額である場合は、偽装ファクタリングの疑いがある
  • 高額な手数料を支払うと、かえって資金繰りが悪化し、多重債務に陥る危険性がある
  • 「給与ファクタリング」と称して個人の賃金債権を買い取る行為は、貸金業に該当する

相談窓口:金融庁 金融サービス利用者相談室 0570-016811/警察相談専用電話 #9110

建設業の視点で付け加えると、ファクタリングの手数料は支払利息ではありません。多くの場合は「売上債権売却損」などの営業外費用(または支払手数料)として処理されるため、Y点で最大の寄与度をもつ純支払利息比率(29.9%)にも、粗利=売上総利益にも、直接は表れません。

ではどこに出るのか。経常利益です。つまり売上高経常利益率(寄与度5.7%)が悪化し、積み重なれば利益剰余金(4.4%)や自己資本比率(14.6%)も痩せていきます。

⚠️ ここが落とし穴です。「利息じゃないから経審の点数に響かない」のではなく、点数に出にくいかたちで利益が削られていくと考えてください。借入なら金利として見えるコストが、ファクタリングでは見えにくくなるだけです。

使うとしても、ステップ①〜④を検討したうえで、手数料率を必ず年率に換算してから。そして「償還請求権あり(売掛先が払わなければ自社が払い戻す)」の契約は、実質的に借入と変わらない点にご注意ください。

補助金は「後払い」——資金繰りの即効薬にはなりません

「資金繰りが苦しいから補助金を」というご相談をよくいただきます。ここは、はっきりお伝えしています。

補助金は原則として後払い(精算払い)です。

申請 → 採択 → 交付決定 → 事業を実施(自社で全額立替払い)→ 実績報告 → 検査 → ようやく入金。入金まで1年近くかかることもあります。

つまり、補助金は短期的にはむしろ資金繰りを悪化させます。設備投資のための「つなぎ資金」とセットで考えるものであって、今月の支払いを乗り切る道具ではありません。

補助金は「資金繰りが落ち着いてから、次の投資のために使う」。この順番が正解です。使える制度は2026年に使える設備・IT系の補助金まとめで確認できます。

「苦しい」を放置すると、こうなります

資金繰りが苦しいとき、真っ先に後回しになるのが書類です。これが、建設業ではいちばん高くつきます。

  1. 決算変更届(事業年度終了届)を出さないまま放置する
  2. 決算変更届が出ていないので、経審が受けられない
  3. 経審が切れて、入札参加資格を失う
  4. 公共工事という安定した売上(しかも前払金がもらえる仕事)を失う
  5. 民間工事の入金待ちだけになり、さらに資金繰りが苦しくなる

まさに悪循環です。しかも決算変更届の未提出は、それ自体が指導・処分の対象になり得ます。まとめて提出する場合の手順は、決算変更届を5年分ためるとどうなる?放置の4大リスクと挽回手順で解説しています。

苦しいときこそ、書類だけは止めない。公共工事という「前払金がもらえる仕事」の入口を、自分から閉じないでください。

よくあるご質問

Q. 赤字だと、建設業許可は取り消されますか?

赤字というだけで直ちに取り消されるわけではありません。神奈川県の手引きでは、一般建設業の更新申請では財産的基礎の確認書類は不要とされています(『建設業許可申請の手引き 令和8年度版』確認資料一覧)。ただし特定建設業は別です。直前の決算で欠損比率20%以下・流動比率75%以上・資本金2,000万円以上・自己資本4,000万円以上を満たす必要があります。

Q. 経審の点数が下がりそうです。今年は受けない方がいいですか?

公共工事を受注する予定がないなら、経審を受けない選択もあります。ただし経審の結果は審査基準日から1年7か月有効で、切れると入札参加資格の更新に影響します。一度落ちたランクを戻すには年単位の時間がかかります。判断は「来年以降、公共工事を取りに行くかどうか」で決めてください。

Q. 税金や社会保険を滞納しています。

神奈川県では、決算変更届や許可申請の場面で納税証明書の添付が求められます。納税証明書には納付すべき額と納付済みの額が記載されるため、未納があればそのまま書面に出ます。手続きが止まる前に、分割納付の相談を含めて早めに動くほど選択肢が残ります(未納がある場合の具体的な取扱いは、県の担当課にご確認ください)。「滞納があるからもう無理だ」と諦めて相談をやめてしまうのが、いちばんもったいないパターンです。納付の相談中であるという事実そのものが、次の手を打つ材料になります。

なお、社会保険(健康保険・厚生年金・雇用保険)の加入は建設業許可の要件です。一方で、令和8年7月1日以降の経営事項審査では、社会保険の加入状況を評価する項目は削除されました(神奈川県『経営事項審査の手引き 令和8年7月1日版』主な変更点)。「許可の要件」と「経審の加点」は別物ですので、混同しないようご注意ください。

Q. 元請から、割引できない長い手形を渡されました。

元請が特定建設業者であれば、支払期日までに一般の金融機関による割引を受けることが困難と認められる手形の交付は、建設業法第24条の6第3項で禁止されています(ただし下請負人が特定建設業者、または資本金4,000万円以上の法人である場合は対象外)。ガイドラインは手形期間60日超を「割引を受けることが困難な手形」と認められる場合があるとしています。まずは手元の手形のサイトが何日かを確認するところから始めてください。

Q. 資金繰り表を作ったことがありません。

まずは3か月先まででかまいません。「入金予定」「支払予定」「月末残高」の3行だけでも、危ない月がどこかが見えます。金融機関や公的窓口に相談するときも、この表があるかどうかで話の進み方がまったく違います。

まとめ:順番を守れば、許可と点数を守りながら立て直せます

  • 建設業の資金繰りが苦しいのは、先に払って後でもらう構造のせい。会社が特別に悪いわけではない
  • ただし建設業には2つの地雷がある。①短期借入の積み増しは特定建設業の流動比率75%に効く ②支払利息は経審Y点の寄与度29.9%で最大の影響力を持つ
  • だから順番が大事。①もらえるお金の回収(前払金4割+中間前金払2割・建設業法の支払ルール)→ ②価格転嫁 → ③公的保証・無料の相談窓口 → ④長期化と利息の圧縮 → ⑤最後に民間サービス
  • ファクタリングは金融庁が注意喚起を出している領域。補助金は後払いで、今月の資金繰りは救わない
  • 経審の点数は決算日(審査基準日)の数字で決まる。動くなら決算日の前
  • 苦しいときこそ、決算変更届と経審だけは止めない

建設業許可・決算変更届・経審のご相談は、やさしい行政書士事務所へ

建設業の資金繰りと、許可・経審のご相談は、やさしい行政書士事務所へ

「うちの流動比率、今どうなっているんだろう」「特定の更新が来年だけど、この決算で大丈夫だろうか」「前払金って、うちの工事でも使えるの?」——そんな段階で、どうぞお声がけください。

決算書を1期分お持ちいただければ、許可要件と経審の観点から、いま何が危ないかをその場でお伝えします。

やさしい行政書士事務所では、建設業許可の新規取得・更新から、毎年の決算変更届(決算後に提出する届出)、経審(経営事項審査=公共工事の入札に必要な会社の評価)まで、幅広くサポートしています。必要に応じて、公的な相談窓口や連携する専門家へのお取次ぎもいたします。

料金の目安は料金ページでご確認いただけます。

😊 まずは無料相談から、お気軽にどうぞ

「前払金って使えるの?」というレベルのご質問でも構いません。決算書を1期分お手元にご用意いただけると、話が早いです。

📞 0463-57-8330

📧 お問い合わせフォームはこちら

💬 LINEで相談する

やさしい行政書士事務所/代表行政書士 宮本 雄介
〒257-0003 神奈川県秦野市南矢名2123-1 オレンジハイツ今井2E

【この記事の出典】神奈川県『建設業許可申請の手引き(令和8年度版)』P12〜13ほか/神奈川県『経営事項審査の手引き(令和8年7月1日版)』第1分冊/e-Gov法令検索『建設業法』第24条の3・第24条の6/国土交通省「建設業法令遵守ガイドライン」(令和8年1月改正)10.下請代金の支払・10-2.下請代金の支払手段等・11.長期手形/国土交通省 関東地方整備局「建設産業|2.資金繰り対策」/東日本建設業保証株式会社「前払金保証制度について」/金融庁「ファクタリングの利用に関する注意喚起」/公益財団法人 神奈川産業振興センター「神奈川県中小企業活性化協議会」/『建設業 経営事項審査制度 評点アップ対策』/『建設業者と行政書士のための 建設業財務諸表の最強ガイド』/『中小企業の補助金がわかる本』

【免責事項】本記事は2026年8月20日時点の情報に基づく一般的な解説です。前払金・中間前金払の導入の有無や割合は発注機関ごとに異なりますので、実際の適用は契約約款・発注機関の要綱でご確認ください。制度・法令は改正されることがあります。個別の判断は、当事務所または管轄の行政庁にご確認ください。

ABOUT ME
アバター画像
宮本 雄介
やさしい行政書士事務所 代表。行政書士(登録番号 第12082434号/神奈川県行政書士会所属)。2011年に行政書士試験に合格し、2012年に開業。以来1,000件以上の相談に対応してきました。建設業許可・経営事項審査(経審)、補助金、会社設立、在留資格、相続を取り扱い、なかでも建設業の許認可を中心にしています。弁護士事務所・社労士事務所での実務経験と、複数企業の社外取締役の経験を持ち、手続きの代行だけでなく経営の視点からも助言します。神奈川県秦野市を拠点に、県内を中心に全国の事業者をサポートしています。