執筆・監修:やさしい行政書士事務所 代表行政書士 宮本 雄介(登録番号 第12082434号)|執筆・監修者について
「決算変更届を出そうとしたら、税理士さんの決算書がそのまま使えないと言われた」——建設業の許可業者様からよくいただくご相談です。
結論からお伝えすると、税務申告用の決算書は、建設業法の様式に沿った「建設業財務諸表」へ組替え(翻訳)しないと提出できません。この記事では、なぜ組替えが必要なのか、どこをどう直すのか、間違えると経審の点数にどう響くのかを、建設業に強い行政書士がやさしく解説します。
目次
結論:税理士の決算書は「そのまま」では提出できません
建設業財務諸表と税務申告用の決算書は、見た目が似ていても別モノです。
- 建設業の許可業者は、毎事業年度終了後4か月以内に決算変更届の提出が義務(建設業財務諸表を添付)
- 建設業財務諸表は企業会計原則・建設業法・国土交通省告示にもとづく専用様式で、科目名もルールも税務の決算書と異なる
- そのため、税理士の決算書を建設業会計のルールへ「翻訳」する作業=組替えが必要
しかも令和5年1月から建設業許可の電子申請・電子閲覧が始まり、提出した財務諸表は元請などの取引関係者からオンラインで簡単に閲覧されるようになりました。「数字を写して出すだけ」では済まない重要書類です。
なぜ税務の決算書と様式が違うのか
建設業の決算書には、建設業法施行規則で決められた専用様式があります。法人の場合は次の一式です。
- 貸借対照表(様式第15号)
- 損益計算書・完成工事原価報告書(様式第16号)
- 兼業事業売上原価報告書 ※兼業売上がある場合
- 株主資本等変動計算書(様式第17号)
- 注記表(様式第17号の2)
- 附属明細書(様式第17号の3)※資本金1億円以下かつ負債200億円未満の会社は不要
個人事業は様式第18号・第19号を使います。専用様式になっている理由は、工事業の特殊性にあります。
- 工事は年度をまたぐことが多く、「未成工事」を表す専用の勘定科目が必要
- 行政庁や元請・下請などの関係者が、原価や人件費の内訳から施工体制・経営状態を読み取れるよう統一されている
- 税務では現金主義の処理も認められるが、建設業財務諸表は発生主義で統一されているため修正が必要
主な組替えポイント【図解+早見表】

建設業財務諸表の作り方の核心は「科目の読み替え」です。代表例を早見表にまとめました。
| 税理士の決算書 | 建設業財務諸表 | ポイント |
|---|---|---|
| 売上高 | 完成工事高・兼業事業売上高 | 工事と工事以外を区分 |
| 売上原価 | 完成工事原価報告書 | 材料費・労務費・外注費・経費(うち人件費)に分解 |
| 売掛金 | 完成工事未収入金 | 兼業分は分けて表示 |
| 買掛金 | 工事未払金 | 兼業分は分けて表示 |
| 仕掛品 | 未成工事支出金 | 未完成工事にかかった費用 |
| 前受金 | 未成工事受入金 | 引渡し前の工事の入金 |
売上高は「完成工事高」と「兼業事業売上高」に区分
- 損益計算書では、工事の売上(完成工事高)と工事以外の売上(兼業事業売上高)を分けて記載
- 兼業売上が総売上高の10%超なら、売上・原価・利益も工事分と区分して表示
- 物品販売に設置工事が伴う場合は、資材代金の方が高くても全体を完成工事高に計上(例:生コンの販売+打設工事)。兼業売上に紛れた完成工事高の計上漏れはよくある誤りです
売上原価は「完成工事原価報告書」に分解
- 完成工事原価は材料費・労務費・外注費・経費(うち人件費)で構成
- 人件費は配属で区分:管理・営業部門は販管費の給料手当、日雇い・日給月給の現場作業員は労務費、工事部門の正規従業員は「経費のうち人件費」
- 決算書で販管費「給料手当」にまとまっている場合は、現場分を工事原価へ按分して振り替える
- 役員報酬は確定申告書添付の内訳書を確認し、従業員給料と分けて計上
未成工事支出金・未成工事受入金(貸借対照表の読み替え)
- 決算までに完成しない工事の費用は「未成工事支出金」、引渡し前の入金は「未成工事受入金」へ
- 正常営業循環基準に注意:工事が長期化しても、正常な営業サイクルで生じたものは流動資産・流動負債のまま。1年基準(ワンイヤールール)より優先される大原則です
注記表は中小企業でも省略不可
- 株式譲渡制限のある中小企業でも「重要な会計方針」「株主資本等変動計算書関係」など最低6項目の記載が必須
- 消費税の会計処理方法(税抜・税込)は必ず記載
金額は千円単位で記載
- 建設業財務諸表は千円単位(大会社は百万円単位)で作成し、千円未満は切り捨て可
- 神奈川県の決算変更届でも千円単位表示は作成指導の対象
経審を受けるなら「税抜」で作成
- 経審用の建設業財務諸表は消費税抜きで作成し、未払消費税(または未収消費税)を計上
- 神奈川県では、経審の前提となる決算変更届は税抜処理で作成したものに限られます(免税事業者は税込)
- 当期分の税金は発生主義で計上(決算書が現金主義なら、法人税申告書の別表5(2)をもとに計上し直す)
組替えの間違いが経審の点数に響く理由
経審を受ける会社にとって、組替えは点数の土台づくりそのものです。
Y点(経営状況分析)への影響
- Y点は建設業財務諸表の数字から8つの指標で計算される
- 現場の人件費を販管費に残したままだとY点は実態より高く出ますが、虚偽申請になる可能性が指摘されています
- 長期化した役員借入金を短期借入金のまま残すと、自己資本対固定資産比率などに影響。1年基準に従った固定負債への振替が必要です
X1(完成工事高評点)への影響
- X1は総合評定値(P点)に占めるウエイトが25%で、Z(技術力)と並んで最大
- 兼業売上に紛れた「設置工事を伴う販売」を完成工事高へ計上し直せば、完成工事高が増えX1に反映される
- 神奈川県では完成工事高と工事経歴書の数値一致が審査され、不一致による決算変更届の修正が多発していると手引きでも注意喚起されています
「疑われる財務諸表」の典型例
- 「経費のうち人件費」がゼロ → 主任技術者などの配置義務違反を疑われる
- 工事原価が外注費のみ → 一括下請負(丸投げ)を疑われる
- 役員報酬がゼロ → 経営業務の管理責任者の常勤性に疑義が生じる
経審の点数全体の仕組みと改善策は経審のP点の上げ方で詳しく解説しています。
自分で組替えをする場合の注意点
兼業がなくシンプルな決算なら、ご自身での作成も不可能ではありません。その場合は次の点を確認してください。
- 検算の基本:当期純利益が法人税の確定申告書と完全に一致すること(1円のズレも不可)
- 科目の定義は国土交通省告示の勘定科目分類で確認する
- 貸借対照表で総資産の5%超、損益計算書で各合計の10%超の科目は「その他」「雑費」に含めず個別に表示
- 「仮払税金」は建設業財務諸表に載せない(未収還付法人税等への科目変更などが必要)
- 提出期限は決算終了後4か月以内。過ぎてしまった場合は決算変更届の出し忘れの対処法を参照
届出全体の手順は決算変更届を自分で出す方法にまとめています。なお、税務申告書の作成・修正そのものは税理士の業務です。当事務所では必要に応じて提携税理士をご紹介できます。
組替えごと専門家に任せる選択肢
毎年のことだからこそ、組替えごと専門家に任せるのも現実的な選択です。
- 税理士作成の決算書・確定申告書一式をお送りいただければ、不足する情報はかんたんなヒアリングで補い、当事務所が建設業財務諸表に組み替えます
- 経審を受ける場合は税抜処理・発生主義計上など経審仕様で作成し、評点への影響もあわせてチェック
- 費用は事前に税込でお見積りし、ご納得いただいてからの着手です。最新の料金は料金表をご覧ください
組替えのご相談は無料です

やさしい行政書士事務所は、秦野市を本拠に平塚・厚木・伊勢原・小田原など神奈川県西部の建設業者様を支援しています。開業以来1,000件超の相談に対応し、一人親方から中堅ゼネコンまで、決算変更届・建設業財務諸表への組替え・経審のスコア改善支援まで一貫してお手伝いしています。
- 決算変更届の提出状況・許可の更新期限の確認は無料です
- 初回相談も無料。費用が発生するのは、税込のお見積りにご納得いただいて依頼された後だけです
「うちの決算書、組替えはどこまで必要?」という段階のご質問でも構いません。お電話(0463-57-8330・平日9:00〜18:00)またはお問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。